• 現場読解
  • ビジネス

2021.01.06

【現場読解】

シンガポールや日本を拠点にグローバルな舞台で活躍するリーダーたちが、人生やビジネスについての信念や情熱を語る!世界の未来を担う人たちにヒントをあたえてくれる「オススメの一冊」も紹介。

《第15回》

シンガポールに赴任してわずか6年でトップに立った芝崎さん。「うちの会社には、与えられるものが確実にある」という言葉に、こんなリーダーの下で働ける社員はさぞかし幸せだろうと想像できる。無尽蔵のエネルギーと懐の大きさがにじみ出る、彼の温かな人となりに触れた。

芝崎 公哉 さん
1986年大阪府出身
在星8年目
尊敬するリーダー/西野亮廣
モットー/何事も、絶対に平均以上の成果と実績を出す。

Good Job Creations (Singapore) Pte Ltd
所在地/238A Thomson Road, #12-08/10 Novena Square Tower A, Singapore 307684
資本金/約3,800万円
2019年度 売上/約7億円
従業員数/48名 (2020年12月現在)
事業内容/人材紹介・人材派遣・就労ビザ申請代行
www.goodjobcreations.com.sg


バンド活動一色だった日本の生活から、北欧留学へ

 高校時代から大学在学中まで、ずっとバンド活動に打ち込んでいました。バーやショッピングモールなどでライブをやったり、コンテストで何度か入賞もしましたが、このまま歌一本で食べていくのは厳しいだろうと考えました。周囲が次々と企業から内定をもらっている中、就職のことを考えてもどうしてもピンとこなかった。そこで、「いつか 留学しろ」と昔から母に言われていたことを思い出し、留学を決意しました。

 一浪して私大に進んだ手前、これ以上親に金銭的な負担はかけたくなかったので、外国人も学費が無料だった北欧の大学の中から、合格したスウェーデンのベクショー大学を選びました。

 生徒たちが自由に意見を交わすディベート形式が基本の授業で、最 初の 3、4カ月はまったく参加できませんでした。授業の内容が分からず、レコーダーで録音し寮に戻って全てを聞き直す、という作業を毎日繰り返していました。夢を追いかけてそれなりの年齢になっていたので、得るものなく帰国するわけにはいかないと、お尻に火がついた状態でした。

学生時代に打ち込んでいたバンド活動。作詞・作曲も手がける芝崎氏

人材業にはまったく興味なく、人で選んだ会社

 帰国後、秋採用で就職活動し、応募した7社のうち6社から内定をもらいました。本当にやりたいのは歌、という歴然たる思いがずっとあったので、正直特に興味のある業界もありませんでした。しかし、選考過程を思い返し、一番自分が自然体で臨めた人材系企業のウィルグループに決めました。面接で出会った人たちがとても好印象で、こういう人たちがいる会社ならいいな、という気持ちもありました。

 大阪で採用されすぐに広島配属、翌年には東京本社へ転勤となり、当時結婚したばかりの妻とともに上京しました。僕の歓迎会という日、上司が突然「奥さん呼んだら」と言ってくれたんです。飲み会の間中上司は、僕がどんな仕事をしているか、どれだけ会社に貢献しているか、妻にずっと話をしてくれました。当時僕には、仕事を辞めてもらって妻を連れてきたことへのプレッシャーもあり、僕の口から普段言えないことを話してくれたことが、本当に嬉しかった。この会社を選んでよかったと思った瞬間です。

面接官だった上司に誘われ、シンガポールへ

 入社2年目の2012年、フィリピンのコールセンター業界がインドを抜いて世界一になりました。弊社でもフィリピンに業務拡大を検討することになり、英語を話せる数少ない人材の一人であった僕が調査のため現地に半年赴きました。その時、僕の面接官の一人で人事部からシンガポール支社に異動になった上司がわざわざフィリピンに来て、「シンガポール に来ないか」と声をかけてくれたんです。50人以上いた同期の中でも、特に僕が印象強くに残っていたみたいです。ウィルはシンガポールでグッドジョブを買収し、まさにビジネス拡大の一途をたどっていました。新たな挑戦を提示され、二つ返事で快諾しました。当時26歳でした。

「自分が代表になれば、会社がより大きくなる」と断言

 ローカル求職者担当のコンサル業務を経て、法人営業を担当する傍ら、2年目には初めて部下を持ちました。人生初の部下はシンガポール人でした。2年おきに昇格を勝ち取り、渡星6年目の2018年4月にMDに就任しました。実は、シンガポールに来て二日目に、マネージャーになりたいと上司に伝えたんです。そうしたら、「今いるマネージャーを蹴落とすか、社員を増やし、もう一つマネージャーのポジションを作るかのどちらかだ」と言われました。そこから、事業拡大に向かって邁進したんです。

 業績が伸び社員も増え、マネージャー職に就きました。次に、代表になりたい、自分がなれば会社が大きくなります、と表明しました。すると上司から、「全部署で成果を出せ」と言われました。それは唯一、彼が成し遂げていないことでした。

 「自分ならできる」と確信していたのは、年齢的に、上司より5年も早くシンガポールに来た僕が、彼よりポテンシャルがあるのは当然だと考えたからです。若くしてチャンスを与えてもらった以上、当時の上司より実績をあげていくのは当然で、むしろそうあるべきだと思ったんです。まさに自分の座右の銘でもある、「青は藍より出でて藍より青し」という気持ちが常にありました。

 結果的に、紹介事業部の全部署で成果を挙げ、代表に就任しました。

半年ごとに行うGJC全社戦略MTG「KickOff」の様子。コロナ禍の2020年はオンラ インで開催した

競合が2,000社以上の派遣業務に乗り出す

 代表就任後、メインの人材紹介の他、人材派遣業務にも着手しました。派遣業務に乗り出すと、競合がローカルや外資に及び、一気に2000社近くに跳ね上がりました。日系人材紹介マーケットで上位になっても、利益はたかだか1億程度です。過酷な市場での確固たる勝算があったわけではありませんが、ビジネスにおいては常に拡大を目指すべきだと、強く信じていたんです。その方が社員たちにも成長実感を持ってもらえるのはもちろん、より多くのポス トや成長機会を提供できる、と。

 今年のサーキットブレーカー期間、人材紹介業の売り上げはかなり厳しい状況でしたが、安定性の高い人材派遣業での実績と政府の補助金のおかげで、減給することなく社員全員に給与を支払うことができました。営業活動も中断せざるをえな い状況でしたが、目先の売り上げにつながらなくてもお客さんとの関係を深めるアクションを取ろう、という方針に切り替えました。その甲斐もあり、8月からV字回復し苦難を切り抜けた、という実感があります。厳しい時期でしたが、社員一人ひとりのポテンシャルを見極めることができました。時間ができたからこそできることを提案してくれる人間と、ただ ただ不安を募らせ何かが起こるのを待っている消極的な人間の真っ二つに分かれたんです。状況をポジティブに捉え、回復期を大きく支えてくれた社員を守るため、CB明けの人員整理は不可欠でした。

「論語」の教えを 10 年先取りで実践

 今後の自分への課題は、孔子の「論語」の教えを、10年前倒しにして全うしていくことです。二十代でリーダーに立ち、三十代で足元を固めてきたので、四十代で惑わぬことはもちろん、何故生きているのか、ビジネスをしているのか、天命を見極めたいです。また、ウィルグループの海外展開が加速しており、グローバルで活躍できる若い人材をグッドジョブから輩出していきたいです。自分よりも若くして海外で活躍している後輩たちには期待しかありません。例えいずれ会社を辞め、他の企業や業種に移ったとしても、一度は一緒に働いた仲間たちが世界中で活躍し、また何かの形で一緒に仕事ができればいいと思っています。

今やっていることが、将来何につながっていくのか

 海外に出ることに少しでも興味があるなら、どんな形でもいいのでとにかく出てみて欲しいです。しかし、その先に何があるか、3〜5年のスパンで考えておいた方がいい。目的意識がなくても、時間はすぐに過ぎていきます。なるべく早く、今やっていることが何につながっていくのかを、具体的にデザインした方がいいと思います。プライベートでの息抜きは、ジムでのウェイトトレーニングとフットサルです。また、シンガポールに来てから8年、仕事に明け暮れてきましたが、音楽活動もタイミングを見計らって再開したいと思っています。

キャプテンとして所属、運営を行うフットサルチーム「PABs」。2018 年にはローカルリーグでシーズン優勝!

オススメの一冊

『道をひらく』 (松下幸之助・著、PHP 研究所)


王道ですが、生きていくための考え方が、たくさんつまっている本です。読み返すたびに線を引きたくなる場所が異なり、それがこの本の深さを物語っています。例えば、今心に響くのは、断を下す、や、正しいことしよう、という言葉です。読む日や状況 によって、感じ方が違うのが面白い、そう思える唯一の本です。


取材・文 小林亮子
日本の映画業界で約10年働き2006年から在星。ローカル学校に通う二人の子育てのかたわら、執筆・通訳翻訳業や、バイリンガル環境の子供たちに日本語を教える会社を経営

 
現場読解の記事一覧はこちら:
【第14回】TheONE unicom Pte. Ltd 代表 保坂 美智子さん
【第13回】CROWN LINE (PTE) LTD 代表取締役 宮本 淳司さん
【第12回】EC & Web Consultant 加藤 秀典さん
【第11回】HAKU Pte Ltd, Founder & CEO 坂野 敦郎さん
【第10回】YouTuber/ウェブサイト「シンガポールと熱狂」編集長 Ghib Ojisanさん
【第9回】ココロアートセラピー 芸術心理療法士 松山 さより先生
【第8回】クロスコープ ゼネラルマネージャー 神田 かの子さん
【第7回】ワイン・ウイスキープレイス「La Terre」オーナーソムリエ 川合 大介さん
【第6回】ミューズ サウンド・デザイナー Kazzさん
【第5回】プルデンシャル フィナンシャル・コンサルタント CARPO FLEURISTE 代表 石井くみ子さん
【第4回】リンガフランカホールディングス 代表 藤山 英昭さん
【第3回】EIS インターナショナルプレスクール 園長 峯村先生
【第2回】ビンテージアジア経営者クラブ株式会社 代表取締役 安田 哲さん
【第1回】株式会社ケセラセラ マネージングディレクター 山本 宏次朗さん