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2019.10.05

【現場読解】

シンガポールや日本を拠点にグローバルな舞台で活躍するリーダーたちが、人生やビジネスについての信念や情熱を語る!世界の未来を担う人たちにヒントをあたえてくれる「オススメの一冊」も紹介。

《第2回》

目標は世界中に日本のファンを増やすこと。日本の企業とモノの海外進出を支援するビンテージアジア経営者クラブ株式会社の社長・安田氏に、そのシンプルなビジョンを支える熱い思いを聞いた。


安田 哲 さん Akira Yasuda
1985年宮城県生まれ。北海道大学大学院、環境科学院修了。在星6年目。
尊敬するリーダー/池間哲郎氏
モットー/『運命自招』

ビンテージアジア経営者クラブ株式会社
www.vintage-sg.com
本社所在地/東京都千代田区丸の内2-2-1岸本ビルヂング6階
従業員/4名(2019年9月現在)
資本金/1,000万円
事業内容/販路開拓コンサルティング、海外進出戦略立案


森林学で学んだメソッドを組織マネジメントに生かす

 森林の生態が分かれば地球温暖化の解決につながるのではと考え、森林学を学びました。そこで面白いことに気づいたんです。大きい木と小さい木が並んで生えている場所で大きい木を切れば、小さい木が大きく育つと思いますよね。ところが木の性質によっては、日光の量が急に増えたことに対応できず、死んでしまうこともあるんです。それって、ちょっと人間に似ていませんか?上司がいなくなって伸びるタイプの人と、プレッシャーでつぶされてしまうタイプの人がいる。植物と人間の生態系には共通項がたくさんあるんです。森林学で得た知識を組織のマネジメントに生かしたいと思い、日本最大規模のシステム開発会社NTTデータに就職しました。

人生を変えた、池間哲郎氏との出会い

 同期トップの成績で入社し、不動産登記の端末の開発管理を担当しました。激務でしたがやり甲斐があり、10倍の速度で成長出来ましたね。その後、飲食事業と教育事業を通じ日本人を元気にするベンチャー企業に転職しました。そんな時、沖縄出身のカメラマン、池間哲郎先生の講演を聞く機会がありました。池間先生はNPOアジアチャイルドサポートで、東南アジアの発展途上国に学校を100校以上、井戸を300カ所以上寄付されています。寄付した施設には日本の国旗が付されており、現地の人々は日本に深い感謝の念を抱いてくれるのだそうです。また現地の有力者たちに、日本のおかげで独立できたと言われたこともあり、日本はアジアへの支援を通じて誇りを取り戻すことができると気づかれたとも。このような支援活動こそ、日本のプレゼンスを高める最高の民間外交だと思いました。海外に出て日本のファンをどんどん増やさないと日本の未来はないことに気づき、外資法人や外国人を日本に呼び込むか、日本でしか作れない真似されづらいものを海外に売り込むことで、日本の発展に貢献することにしました。

ドバイでの大失敗から学んだこと

 ヒト・モノ・カネが集まる世界のハブで日本のサービスや商品をバンバン売っていこうと思い、起業してドバイに移りました。現地企業に出資し業務提携したのですが、見事に全財産を失いました。彼らは小さな会社と組む必要がないほどの大企業だったんです。日本のお客さんとのアポを頻繁に打診するなど、こちらのペースでどんどん仕事を進めたら、お前はうるさい、そんな小さな話には興味がないと嫌われてしまいました。ところが、日本に帰るように言われ資本金を返してもらおうとすると、「それはそれだ」と。外国人と仕事をするのも初めてで、戦い方を一切知りませんでした。それまで、世の中には‘いい人とすごくいい人’しかいないと思って生きてきましたから。国による商習慣の違い、日系企業が海外進出する難しさを身をもって体験しました。

日本の信頼度は世界一、プレゼン力はワースト

 ドバイでの失敗後、大阪へ移りました。そこで、シンガポールで日本の海外展開をサポートしている人物に出会い、この地に進出するきっかけを得ました。
 当初、知り合いの会社の商品販売をしましたが、日本と同じ売り方をしてもまったく売れないんです。経済的成熟度や文化、宗教、響く言葉は国により異なります。現地の人の購買意欲をあおるにはどうすべきか、研究し続けました。昨年販売したソーケンメディカルの磁気治療器は、埼玉大学と共同研究を行い、この機械が人の血流を改善するという結果を、国際学会で発表し続けています。血流改善するエビデンスを有する磁気治療器は、世界でこの1つだけです。この‘オンリーワン’をアピールして、3つのサロンのオープンまでこぎつけました。
 日本人の強みは、世界一信頼度の高いパスポートを保有している点です。2019年に発表されたパスポート信頼度ランキング(Helnlly Passport Index)で、日本は190カ国にビザフリーで渡航できる世界一信頼度の高いパスポートとされました。これは、日本人の先人が世界各国の発展にどれだけ貢献して愛されてきたかということと直結していると私は感じています。一方で、弱みはプレゼン力の低さです。いいものを作っているのに、相手に響く伝え方がとても下手。こっちの人は、小さいものを大きく、ないものをあるように言うように教育されています。
 シンガポールにいる利点は、世界中のビジネスマンや決裁権者とすぐ会えることです。居住者の約5人中2人がシンガポール国外の人なので、どの国であたりそうかすぐ情報収集できます。やりづらい点は、速度があまりに速い。決断をためらっていると、もうその案件はいいとよく言われます。人の移動も速く、案件の進行中に担当者が転職してしまうことも。私のスピード感覚がまだ追いついていないですね。

双方の国益にかなった、技術実習生の語学研修を支援

 その他の業務として、クラウドレジデントという営業秘書代行サービスを運営しています。一年契約だと月13万円で毎月20時間、出張一回分のコスト相当分で、我々の人脈をフル活用してもらえます。また、インドネシアのバンドンで、日本に行く技術実習生向けの語学学校を経営しています。技術実習生制度は、産業を支える技術がない国の若者が、日本で技術を習得し自国の産業発展に役立てるシステムです。しかし最近、劣悪な環境で働かされている実習生の失踪問題が相次いでいます。今や日本は、外国人にとって非常に働きづらい国になっています。その対極がシンガポールです。外国人が公平に働ける場所をうまく提供しており、日本はそのノウハウを学ぶべきです。
 語学学校経営を行う中で「日本がいかに外国人労働者にとって住みにくい国か」ということが分かってきました。
日本を外国人労働者にとって住みやすい国にすべく、日本人の外国人雇用リテラシーを高めるための民間資格(外国人雇用管理士)を発行する社団法人を仲間たちと(一社)東京都外国人就労認定機構を立ち上げました。2019年10月に公式テキストを発売し、2020年2月には第一回目の試験を実施予定です。
 東南アジアの人々は、政府や企業には頼らず、自分の人生と未来は自力で切り拓いていこうという力がとても強いです。外需グローバル思考になれない日本人は、これから更なる苦境に立たされます。それに気づかせてくれるのが、東南アジアの目をギラギラさせた若者たちだと思うんです。彼らと日本人との接点をどんどん作っていきたいです。

日本は課題先進国である

 シンガポールに移住し気付いた日本の強みと弱みをまとめ、2019年1月に「日本人として世界に挑む」(カナリアコミュニケーションズ)出版しました。その中でも触れていますが、日本は課題先進国なんです。人口爆発、公害、技術発展とその規制、高齢化、少子化、介護問題など、経済発展途中のアジア諸国が今後直面するであろう問題を、過去50年間に全部経験しています。日本は体験済み課題の答案を持っており、アジアではそれが必要とされているんです。これこそ日本が提供できる価値であり、世界に貢献しながらビジネスにおいて成長していける方法だと思っています。

北大院で森林を研究していた頃、留学先のケベック大学の仲間たちと撮影した一枚。北米に生息するヒグマの一種グリズリーの骨を囲んで、安田氏の手にはグリズリーの歯!

バンドンの語学学校の写真を大きめに。写真タイトルを、「介護、建築等の技能実習生を輩出しているバンドン語学学校。これまで300人以上送り出しているが失踪者は0名。

WELLNESSY PTE. LT D社と共同運営する「Chinatown」の磁気治療器サロン

オススメは、失敗のスパイラルから抜け出す方法が分かる本

 日本の外交音痴は100年前と変わっておらず、その失敗は繰り返されている。そこからどうしたら抜け出せるか、具体例が書かれた非常に面白い本です。第二次世界大戦の敗戦と失われた平成の30年が生まれた根本的原因は同じ、という分析も興味深い。海外経験が長い著者が、外国から見た日本がいかに特異か、国内にいるだけではなかなか分からないことを示してくれています。

『新・失敗の本質——「失われた30年」の教訓』
著者:山岡鉄秀
出版:扶桑社


取材・文 小林亮子
日本の映画業界で約10年働き2006年から在星。ローカル学校に通う二人の子育てのかたわら、執筆・通訳翻訳業や、バイリンガル環境の子供たちに日本語を教える会社を経営

 
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