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2019.12.19

【現場読解】

シンガポールや日本を拠点にグローバルな舞台で活躍するリーダーたちが、人生やビジネスについての信念や情熱を語る!世界の未来を担う人たちにヒントをあたえてくれる「オススメの一冊」も紹介。

《第4回》

リンガフランカホールディングスは、日本企業がシンガポールとマレーシアの会社を買収する際の仲介会社だ。買い手と売り手のマッチメイキングであるM&A事業は、“買収”よりむしろ“パートナー探し“だと語る藤山氏に、M&Aの真髄を聞いた。


藤山 英昭 さん
1973年福岡県生まれ
九州大学経済学部卒、同大学人間環境学研究科修士卒
在星10年目
尊敬するリーダー/稲盛 和夫 氏
モットー/『他利奉仕』

Lingua Franca Holdings Pte. Ltd.
www.linguafrancaholdings.wixsite.com
本社所在地/80 Robinson Road, #02-00 (S)068898
従業員/13名(2019年11月現在パートタイムスタッフ含む)
資本金/100,000ドル
事業内容/東南アジアにおけるM&Aコンサルティング事業
お問合せ先/info@lf-holdings.com


多角的にビジネス展開後、本業のM&Aに一本化

 大学卒業後、銀行に2年勤め、再度大学院に戻ってその後政府系金融機関に入行しました。スリランカ、バングラデシュ、ベトナムの電力セクターを担当、年の三分の一は海外出張する中で、アジアで仕事をすることを肌身で覚えました。転職先の日系投資会社の合弁会社設立に伴い、2005年マレーシアに赴任しました。4年後に東南アジア責任者としてシンガポールに転勤となり、以来10年間当地を拠点に活動しています。
 現会社を設立したのは2013年です。自分の会社を作りたいという漠然とした思いは、20代から抱いていましたが、実現に向けて具体的に考え始めたのは30代になってからです。仕事で多くの企業家たちに出会う中で、彼らと同じ立場に立ちたい、自分の事業を起こすという一生に一回の機会をどこかで実現させたい、と強く思うようになりました。その頃、すでに海外赴任が8年に及んでおり帰国の話が持ち上がったので、それを機に決断しました。
 会社設立当初、資金繰りは容易ではありませんでしたが、自己責任でやりきるやりがいは非常に大きかったです。また、サラリーマン時代、いかに自分が甘かったかも痛感しました。最初の3年は、台湾で別会社を作ったり日系飲食企業の役員として事業展開に関わったり、様々な事業を手がけました。昨今は、自分の会社を作った思いを再確認し、現在は本業のM&Aに一本化しています。今年だけで4件、現地企業の買収を手がけました。

買い手売り手のマッチメイキングからアフターケアまで

 仲介会社の仕事はまず、買い手となる日本企業と売却したい現地の会社の両方を見つけることです。海外進出を戦略の一つに見据える日本企業が、年々増えています。それらの会社と日々意見交換をしながら、一方で、売却を念頭においている現地企業の情報を集めます。ある会社が買収対象として優良だと判断したら、弊社でその会社のスクリーニングを行います。その後、法務デューデリジェンス(DD)と呼ばれる弁護士と、財務デューデリジェンス(DD)と呼ばれる会計士を雇い、買収対象となる会社の中身をチェックします。特に問題がなければ、契約書作成から締結まで進みます。価格や条件について双方の想定のギャップをどう埋めていくのかが、我々の腕の見せ所でもあります。
 仲介会社としての仕事は一旦そこで終わりますが、当然売り手買い手にとってはそこがスタートラインです。それ以降もアフターケアの必要に応じて、アドバイザーや顧問として関わることもあります。

交渉において重要視していること

 M&AはMergers and Acquisitionsの略で企業合併や買収を指しますが、交渉の場ではその用語をなるべく使わないようにしています。買収成立後は、双方の会社間には法的には上下関係ができますが、日本企業が現地企業を経営できるかというと、そう簡単にはいかないんですね。長期的な展望を持ち、現地サイドを対等のパートナーとして扱うべき場合が多々あります。交渉の場では、買収ではなくパートナーを探しているという言い方を意識的にするようにしています。
 過去に、ある日本の食品系上場会社のパートナー探しをお手伝いしたことがありました。そこは日本では相当数のM&A経験があり、買収対象会社はパートナーであり、一緒にやっていく仲間だというスタンスを持っていました。海外展開は初めてでしたが、出張に来るたびに買収した企業オーナーの家に泊めてもらえるほどの関係を築いていました。ノウハウに正解はありません。始まりは飲み会のレベルかもしれない。オープンになれる環境を作り、何でも話しましょうという姿勢を持ち続けることの大切さを教わりました。
 また、企業買収を経験した日本企業の経営者が、企業文化、財務や決算の管理、誰が決定権を持っているのかなど、状況が異なる買収先と融合していく過程は、5年は時間がかかると話していたのが印象的でした。かつて前職で私自身が担当したマレーシアの現地会社との合弁会社は、持ち株比率が対等でした。日本企業が親会社であることを主張しなければという気持ちが強く、自分の立場からのリクエストばかり伝えていたという、苦い経験があります。対等合弁のM&Aは避けたほうがいいといわれるくらい難しい形態で、一つのチームを作りきれなかったという気持ちが今でも残っています。

海外進出の足がかりとなりえる国シンガポール

 買収対象の候補となるのは、当然いい会社です。では、いい会社とはどんな会社か。単に利益面だけでなく、パートナーたりえるか、一緒に経営の道を歩んでいけるかどうかだと考えています。従業員の仕事への姿勢、そして何より、オーナーが誠実であるか、信頼できる人間であるかを見極めることが肝心です。
 シンガポールは建国50年を過ぎ、多くの会社が代替わりの時期に入っています。創業3、40年経ち二代目に引き継がれるか否かのタイミングで、事業承継に悩む会社が多く、それらの企業を日本企業に提案することが多いです。
 英語が通じ、法制度や会計制度に透明性があるシンガポールは、最初の海外拠点として非常に進出しやすい国です。インドネシアなどに比べると遥かに人口は少なく市場は小さいですが、海外進出の経験のない会社にはインドネシアはハードルが高い。シンガポールで経験を積んで、マレーシアやその他の国への展開を試みる企業が多いですね。家族を帯同するのに、教育や医療面が整っているのも、とっかかりとなりやすい要素の一つです。

いい輪を循環させていくために

 日本とシンガポール・マレーシアをつなぐM&Aの仲介会社として、真っ先に名前が出る会社に弊社を成長させていきたいと思っています。社名の“リンガフランカ”には、“共通言語”という意味があります。東南アジアと日本をつなぐ触媒の役割を果たす会社でありたい、という思いが込められています。M&Aの件数を積み上げていくだけではなく、いい経営者でありいい会社であり続ければ、いい縁にめぐり合えると信じています。その中で、現地企業と日本企業をつないで、いい輪を循環させていきたいです。

日本で行われたスタートアップ関連のイベントにて、アジア展開について講演

日系投資会社に勤務時、マレーシアの投資先の取締役を務めており、通産省の EXPORT EXCELLENCE AWARDを受賞。同社の仲間と一緒に

シンガポールの創業約40年の会社が、日本企業に更なる成長を託す。日本企業への株式譲渡を決めた契約日当日の様子。2代目の方の晴々とした笑顔が印象的だ

オススメの一冊

日本を代表する経営者が行き着いた、“心”のあり方
 京セラとKDDIという大企業の創業者、稲森和夫さんは、言うまでもなく日本を代表する経営者です。80歳を超えられた稲森さんが、語るべきテーマとして経営戦略ではなく、‘心’に行き着かれたのがすごいと思いました。生きる道理や道徳、感謝や謙虚であることこそ重要であり、事業をやる上で従業員や顧客を幸せにすることが出発点であるべき、と語られています。自分もこうありたいと思わせてくれる本であり、買い手売り手の両方が幸せになる買収の手続きを執り行ない、双方が手を取り合って仲良く事業を行えているか確認することの重要さを再認識させてくれます。

『心』(稲盛和夫・著、サンマーク出版)

【お詫びと訂正】
J+PLUS 12月号において掲載された記事に誤りがございました。関係者の皆さまには多大なご迷惑をお掛けいたしましたことを謹んでお詫び申し上げ、ここに訂正いたします。
P20,21 誤)稲森 和夫氏  正)稲盛 和夫氏


取材・文 小林亮子
日本の映画業界で約10年働き2006年から在星。ローカル学校に通う二人の子育てのかたわら、執筆・通訳翻訳業や、バイリンガル環境の子供たちに日本語を教える会社を経営