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2020.07.03

【現場読解】

シンガポールや日本を拠点にグローバルな舞台で活躍するリーダーたちが、人生やビジネスについての信念や情熱を語る!世界の未来を担う人たちにヒントをあたえてくれる「オススメの一冊」も紹介。

《第9回》

人間の心の世界と芸術への興味が結びつき、芸術心理療法に出会ったという松山先生。オンライン取材中、仕事や人生にとって大事なことをたくさん教えてくれるという愛猫ドルチェちゃんが飛び入り参加する中、日々の生活を輝かせてくれる素敵なお話をたくさん伺った。


松山 さより さん
東京都生まれ
聖心女子大学教育学部心理学科卒業
NY の School of Visual Arts 大学院、
Pratt Institute 大学院の芸術心理療法修士過程を修了
在星7年目
尊敬するリーダー/祖父母、両親、恩師達
モットー/感謝の気持ちを忘れないように、毎日を大切に生きる

Kokoro Art Therapy Development Pte Ltd
www.kokoro-sg.com
所在地/304 Orchard Road, #05-39 Lucky Plaza, (S)238863
e-mail/services@kokoro-art-therapy.com
お問い合わせ/日本語 9123-1779(SMS 可)、English 6476-0493


12歳で親元を離れ、ハワイで中高生活を送る

 小さな頃から、「早見優のアメリカンキッズ」(*1)を見て育ち、英語を話すことに関心を持っていました。英語に興味があることを両親も理解してくれ、当時アメリカで12歳からインターナショナル生を受け入れていた、ハワイ島にある学校に留学しました。

 中学、高校では、勉強のほかスイミング、バスケットボール、乗馬、フラダンス、タヒチアンダンスもやっていました。週末には、よく海 にも行きました。学校の裏手の山にはたくさんの馬が放し飼いにされていて、その馬に乗ってハワイ島の山を1週間程キャンプに出かけたこともあります。友人と一緒にテントを張ったり、寒い中、寝袋で寝たり、外で釜風呂を焚きお風呂に入ったりと今でも懐かしい思いです。ハワイの学校ではかけがえのない友人達に出会い、人や動物への優しさも学ぶことができました。
(*1)1988 年から1994年まで放映されていた教養バラエティ番組

心理学と芸術を結ぶ、芸術療法という世界に出会う

 昔から、人の気持ちに興味がありました。小さな頃から言葉にしなくても、行動や感覚から人の気持ちを繊細に感じることがあったのです。大学のゼミ担当教授で、臨床心理学分野の大家である橋口英俊先生から、心理カウンセラーになったらどうかと勧められました。先生は私に、人の心と体は常に繋がっているという、心理学の大切な基礎を教えてくださった方です。

 大学院へ進学を決め準備で慌ただしく過ごす中、私は色々な状況の変化に疲れていました。その頃、ふと夜中に絵を描いたり、まわりの物を使い立体作品を作ったりしていました。安心感があり心地よい時間の流れを感じ、次第に芸術に興味を抱くようになり、そこで芸術療法という、言葉の心理療法だけではなく、芸術や体を使った表現を通じて理解していくという世界に出会ったのです。橋口教授に相談したところ、とても喜んでくれました。そして芸術療法が学べるアメリカの大学院進学を決めました。

人間として大きく成長させてくれたNYの8年間

 ニューヨークにあるSchool of Visual Artsでまず芸術の基礎を学び、その後同大学院に進みました。さらにPratt Instituteの魅力に惹かれ修士課程に進み、勉強とインターン生としてのクリニックの仕事を両立させながら、芸術療法学の修士号を取得しました。

 ブルックリンにあるPratt Instituteのメインキャンパスには、たくさんの猫がいました。Prattキャッツと呼ばれ、敷地内に住んでみんなにとても大切にされていて、学校の入り口には猫の通り道があり、キャンパスの内外を自由に行き来できるようになっていたのです。時には、猫達と一緒に授業を受けることもありました。猫達は私に、人との適度な距離感、優しくただそっと側にいてくれる安心感など、大切なことを教えてくれました。猫は感覚が鋭く、言葉で表現できないような感情を感じること ができます。この仕事では、言葉に出さなくても感じてあげる感覚というのはとても大切だと思っています。猫との出会いもあり、10 年以上前 からベジタリアンになりました。

 卒業後は日系のクリニックなどで働き始めました。様々な出会いがあり、どれも貴重な経験、大切な記憶です。NYで過ごした時間は、私を人間としても大きく成長させてくれました。

アメリカからシンガポールへ

 アメリカの生活が長くなる中、次第にアジアでも仕事をしたいと思うようになり、当時、中国とシンガポールから仕事のオファーを頂いた中で、英語でも仕事ができるシンガポールを選びました。政府系機関で働いた後、精神科医であるTan医師と共に今のカウンセリングルームで働き始めました。シンガポールでは初めて、精神科と心理カウンセリングが同時に日本語で受診できる場所を実現しました。

 シンガポールは、アメリカに比べとても安全です。夜でも女性が一人で安心して歩けるという環境にも驚きました。とても働きやすく、住んでいる人々も優しいと感じています。

芸術を通じて表現し、言葉では説明しきれない心を読み取る

 芸術療法とは、言葉のセッションに加えて、言葉だけでは説明しきれない心の声や感情を、絵や創作、体の動きなどを通して表現していく療法です。言葉だけでは限界がある世界を表現することもでき、そこでは、意識と無意識の世界を視覚化できます。様々な技法がありますが、絵や粘土、字、体の動きなどからも、心理状態を見ていきます。

 一つの表現形態から判断することはしませんが、例えば、子どもに家族の絵を描いてもらうと、家族関係など何かしら家庭の様子が現れます。絵や創作に現れる形には真実が隠されていることもあります。言葉では嘘はつけますが、絵や創作などの表現で嘘を付くのは難しいです。特に、小さな子は自分に嘘を付くのは難しいことです。それは絵の中にも顕在化されます。国や文化によっても色の認識や表現は異なります。日本では太陽を赤色に描く子どもは多くいますが、アメリカでは、子どもが太陽の色を黄色やオレンジ色ではなく、赤で描いていると心理状態を心配されることもあります。

悪い状況でも、必ず一つは前向きになれることがある

 海外にいると、大人子どもを問わず、慣れない暮らしや環境の違いなどが原因でストレスを感じ、助けを必要とする患者さんに出会うことがあります。人間は常に安心できる場所を必要としています。頼りにできる、裏切られない心の拠り所が必要なんです。

 サーキット・ブレーカー中もオンラインでカウンセリングを続けていましたが、不自由な生活が長引く中、どうやってモチベーションを保っていくか、ストレスやうつ状態に悩む患者さんもいらっしゃいました。悪い状況でも、必ず一つは前向きになれることがあるとお伝えするようにしています。それを見つけていくことで、気持ちが和らいでいくことがあります。いやなことしか見えなくなると、人間は絶望の淵に落ちてしまうことがあります。その中でも、希望や助け合う気持ちを持ち続けることが大切なのです。

頑張りすぎず自分のペースで進んでいけば、大丈夫

 心と向き合う仕事をしているので、自分の心や体の健康にも気をつけています。毎日運動をし、メディテーションやヨガなどもしています。お花も好きです。美味しい物を食べることでも癒されています。

 現在海外にお住まいの方、また、今後海外での生活を考られている方にお伝えしたいのは、あまり無理をしないということです。つらい状況や困難な時は必ずあると思いますが、無理するよりも時間が勝手に解決してくれることもあります。そんなに頑張らないでください。助けが必要な時には、誰かに相談してください。自分のペースを大切に。自分自身を信じてあげましょう。

大学院の卒業式にて、友人と

大学院在学中、ブルックリンにある美術館に展示した作品達

かけがえのない時間を過ごした NY の自由の女神。日没時の輝きを捉えた一枚

納得した人生を生きることの大切さを教えてくれる一冊

『100万回生きたねこ』 (佐野洋子・著、講談社)


 飼い主が変わるたびに、何度も死んでは生き返る猫ちゃんが、納得した人生を生きた後はもう生き返らなくなるという話です。愛や死について深く考えさせられ、また読み手の感覚によって様々なメッセージが読み取れる本です。生きる者には、やがて死が訪れます。それがいつかは誰にもわかりません。なので、毎日悔いのないよう生きることを忘れてはい けないと思い出させてくれます。

 オススメの本がたくさんあり、一冊に絞りきれませんでしたので、その他に二冊紹介させてください。まず、「おおきな木」(シェル・シルヴァスタイン・著、村上春樹・訳、あすなる書房)は、愛情をどうやって与え、また受け取っていくかという愛についての最大のテーマが書かれた本です。揺るがない愛情と安心できる場所を得ることの大切さが深く伝わってきます。また、「見てる、知ってる、考えてる」(中島芭旺・著、サンマーク出版)は、著者 の芭旺(ばお)くんが10歳の時に出版した本で、大人の偏見に負けずに綴られた言葉がたくさん詰まっています。「自分を大切にしよう、話はそれからだ」など、臨床心理においても大切にちりばめられた一冊です。

『おおきな木』(シェル・シルヴァスタイン・著、村上春樹・訳、あすなる書房)

『見てる、知ってる、考えてる』(中島芭旺・著、サンマーク出版)

松山先生から読者の皆様へ

 記事内で紹介された書籍三冊をプレゼントいたします。先生がお仕事の開始時や1日の終 わりのリラックスタイムで愛用されているバラのアロマスプレーと各書籍一冊をセットにした、心温まるギフトです。
【応募方法】ご希望の本のタイトルを明記の上、hellonet@comm.com.sg までメールでご応募 ください。当選者の方へは編集部よりご連絡いたします。
【応募締切】7月31日(金)


取材・文 小林亮子
日本の映画業界で約10年働き2006年から在星。ローカル学校に通う二人の子育てのかたわら、執筆・通訳翻訳業や、バイリンガル環境の子供たちに日本語を教える会社を経営

 
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