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2020.10.29

【現場読解】

シンガポールや日本を拠点にグローバルな舞台で活躍するリーダーたちが、人生やビジネスについての信念や情熱を語る!世界の未来を担う人たちにヒントをあたえてくれる「オススメの一冊」も紹介。

《第13回》

海外引越し40年の実績を誇るクラウンラインで勤続16年になる宮本さん。3カ国に勤務した経験から、お客様一人ひとりに合わせたホスピタリティとそのためのチームワークの大切さを実感しているという。人々の新生活に寄り添う会社を支える大黒柱のような宮本さんに、引越し業務の真髄を聞いた。

宮本 淳司 さん
1974年兵庫県生まれ
在星歴9年
モットー/喜んで感謝する

CROWN LINE (PTE) LTD
www.sg.crownline.jp
所在地/No.2 Penjuru Ln, Singapore 609183
資本金/S$200,000
従業員/24名
事業内容/引越業


高校時代に訪れたマレーシアが海外進出の原点

大学卒業後、電子機器の産業廃棄物をリサイクルする会社に就職し、すぐにジョホールのバトパハへ赴任しました。大学入学前に、両親の知人の誘いで行った初めての海外渡航先がマレーシアだったんです。その時の印象がずっと残っており、いつかまたアジアに行ってみたいと心のどこかで思い続けていました。大学時代には中国にも興味が向き、中国語を勉強して一人旅しましたが、色々と辛い思いをすることの方が多い旅でした。自分の始点はどこだろうと漠然と考えていたところ、マレーシアで働く仕事に出会い就職と渡航を決めました。
意気揚々と赴いたものの、自分も現地スタッフも同じくらい英語が得意ではなく、いきなり言葉の壁にぶち当たりましたね。郷に入れば郷に従えだと痛感し、なんとかマレー語でやり取りできるようになるまで2年ほどかかりました。

舞台上右が宮本さん。雅楽は指揮者がいない音楽で、舞人と演奏者の呼吸で出来上がる。メンバーによってリズムや曲の印象が変わるのが、会社や仕事に通じるところがあるという

ʻやり残した感ʼ に突き動かされ、再びマレーシアへ

5年後、会社の事業撤退をきっかけに帰国しました。実は後半、少しスランプに陥っていました。今思えば、会社や社会、お客様のために役に立ちたいという気持ちばかりが先走り、そこに感謝する心を見失っていたんだと思います。日本で働く中で新たな発見と成長が望めるのではと考え、日本で再就職しました。しかし、1年経つか経たないうちに、これは自分以外でもできる仕事なのではないか、自分の心の本質に素直に生きていないのではないかと疑問を抱き始めました。
そして次第に、自分が海外で培ってきたことを生かしたい、海外でやり残してきたことがあるのではないか、という気持ちが沸き起こってきました。駐在当時、現地の人々に苛立ったり気負って接したりすることで、帰国しても引きずっていた心の隙間は、やはりまた海外に出てみないと埋まらないのだと思い至ったんです。その時にちょうど縁があって就職したのが弊社です。募集のあったポジションがジョホールバル勤務だったので、あそこでまた自分の力を試せるんだという手応えを感じました。

 

10年前とほぼ変わらない社員の顔ぶれ、ʻ変わらなさʼこそが会社の強み

自分たちのサービスやそのための努力がダイレクトにお客様に伝わり喜んでいただけること、それが入社当初から変わらず感じているこの仕事の醍醐味です。取締役という立場になってからは、責任を担うポジションで人一番努力をしなければならないという思いが加わりましたが、お客様のために自分に果たせる役割があるならば、喜んでやらせていただきたいという気持ちに変わりはありません。
ジョホールに2年勤務したのち、シンガポールに3年、中国に6年勤務して、2016年からシンガポールに二度目の転任となりました。約10年経て再び住んでみて、世界におけるシンガポールの位置付けが確固たるものになったと実感しました。経済や技術など総合的な国力が世界で認められ、急速な発展を遂げた姿には自信がみなぎっています。
国や人々の生活が豊かに変化した一方で、弊社の社員は10年前とほぼ変わっていません。シンガポールではキャリアアップを目指してジョブホッピングする人が多く、同じ職場で長く勤続する人は極めて稀です。その中での’変わらなさ’が我々の良さ、強みだと考えています。

「日本人もシンガポール人もそれぞれ歳をとりましたが今もなお在籍する社員も多く、この仕事が好きで日々つとめるみんなの思いや経験をつなげていきたいと思っています」と宮本さん

お客様と直接やりとりできる中で得られるモチベーション

日本から初めて赴任でいらっしゃったとき、引越しの担当をさせていただく弊社のローカルスタッフは、おそらくお客様が会う数人目のシンガポール人たちの一人だと思うんです。彼らもそれを理解していて、言葉が通じないながらも「ようこそ!」という気持ちでホスピタリティを発揮しようとしてくれる。日本人のお客様たちもそれに対し感謝の言葉を述べてくださるので、人の役に立っていると実感でき、経験やスキルを積んできた自分の仕事への誇りにつながるのだと思います。ユーザーであるお客様と直接やりとりすることの喜び、そこから得られる人と人との心の通い合いは、何よりも励みになるのではないでしょうか。
お客様一人ひとりに合わせたサービス実現のためには、スタッフが考える最善を尽くすことが大事です。それが、結果的に会社としてのサービスの質の向上につながっていくと信じています。

 

それぞれの国によって、社員との接し方にも工夫

複数の国に勤務しましたが、シンガポールでのやり方が他の国でも通用するかというと、必ずしもそうではありません。中国に勤務当時は、特に日中の関係が冷え込んでいた時期で、日本人に対して冷ややかな視線が向けられることもありました。そんな中、普段一緒に働く仲間であっても意思疎通がギクシャクすることがあり、そんな時にはいつもやっているようにただ指示を出すだけでなく、とことん話して互いに納得できる点を見つける必要がありました。そこに住まわせてもらっているからこそ、スタッフであっても相手の心情も理解しながら話すことの大切さを学びました。
シンガポールの良さはルールがあり、なんだかんだ言いながらも皆がそれを守り理解しているところだと思います。一方で中国やマレーシアでは一筋縄ではいかない大変さはありました。しかし、最初のジョホールでの何も知らなかった苦労を思えば、まだまだここからやれることがある、という思いが常に自分を突き動かしています。最初は思い通りにいかなくても、一緒に考えたり汗を流したりすることで見えてくること、分かり合えることもあるので、挑戦し続けることができるのだと思います。

質のいいサービスの実現を支えるのは、現場のチームワークだ

 

全自動化は不可能な、人の力・技・心が要の引越し業界

今後どんなに技術が進歩しても、決してすべてを全自動化できないのが引越し業界の特徴の一つだと思います。人の力、技、心が要あり、今後ますますその部分が重視されると思っています。お客様のお宅に伺い、大切なものに触れさせていただきながら紙で包んでいくという作業は、機械には決してできませんし、これからも変わらないと思います。人の手の大切さを、弊社の仕事を通じて次の世代に伝えていければと思っています。
現在、そして今後海外でのキャリアを模索している方々にお伝えできることがあるとすれば、新天地に到着した 1 日目に抱いていた挑戦の気持ちを、その後年月を経て何か思い悩むことがあっても忘れずに思い出してもらいたいということです。それが信念となり自分を支えてくれるはずです。
最初のジョホールでの経験は、自身の人生観や仕事に対する考え方に大きな影響を与えています。社会の役に立ち、人に喜んでいただくよう精一杯取り組むことで、自分の可能性を広げ更に役立てるスキルを磨いていくこと。それが当時も今もなお変わらない自分の終わらない旅です。

 

オススメの一冊

『マレー蘭印紀行』(金子光晴・著、中央文庫)

私のアジア生活のスタートとなったバトパハの街に滞在した詩人、金子光晴の代表作です。右も左も言葉も分からず現実の厳しさに直面していた時、友人に紹介され手に取りました。日本人会跡地や船着き場、茶室などの様子を読んで、当地に住んでいたからこそ先人たちの苦労が手に取るように感じられました。そして自分という人間が大きな時の流れの一部で、周囲の様々なこともまたその一部だと思えました。すると、複雑だった心境が解きほぐされ、街も人も段々と好きになっていきました。今この本を見ると、当時の苦しさや楽しさ、悩みやワクワク感などが思い出されます。そして、初心に帰り身の引き締まる思いがします。


取材・文 小林亮子
日本の映画業界で約10年働き2006年から在星。ローカル学校に通う二人の子育てのかたわら、執筆・通訳翻訳業や、バイリンガル環境の子供たちに日本語を教える会社を経営

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