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2020.12.01

【現場読解】

シンガポールや日本を拠点にグローバルな舞台で活躍するリーダーたちが、人生やビジネスについての信念や情熱を語る!世界の未来を担う人たちにヒントをあたえてくれる「オススメの一冊」も紹介。

《第14回》

「さくらまつり」から携帯アプリまで、多方面で活躍する保坂さんには、人やプロジェクトをボーダーレスに惹きつける天賦の魅力がある。その輝きを支える並々ならぬ努力、そして長年に渡る闘病を経て行き着いたファスティングによる自分の体との共生について語ってもらった。

Photo credit : Ayumi Nagami

保坂 美智子 さん
在星11年目(海外在住歴27年目)
カリフォルニア大学バークレー校卒業
尊敬するリーダー/父・保坂宗一
モットー/信じずに失うものは、信じて失うものより大きい

TheONE unicom Pte. Ltd. (Mooone.co)
資本金/S$112,500
事業内容/似顔絵を自由にカスタマイズして、コミュニケーションをするソーシャルアプリ「Mooone」を提供


「迷ったら、難しい方を選べ」という父の教え

 「選択に迷ったら、簡単な方より難しい方を選べ」という教えを父から受けて育ちました。学校の勉強について厳しく言われたことは一度もありませんが、負けず嫌いな性格は父の影響です。
 高校入学直前に亡くなった母が私の性格や興味を察し、「あの子を海外に留学させてあげてほしい」と父に伝えてくれていたそうです。高校時代に研修プログラムでアメリカに行った際、カリフォルニア大学バークレー校を訪れその佇まいに魅了され、将来ここで勉強しようと決意しました。
 高校卒業後に渡米し、語学学校を経てコミュニティカレッジに進学、そこから大学編入を目指しました。ところが、希望していた理系に必要な単位を取れるコンピューターの授業がそこにはなかったんです。そこで、受講希望者の署名を集めコース設立の嘆願書を学長に提出し、開講を実現させました。とにかくやってみる、やってもいないことをできないと言うな、という父の言葉を自分に言い聞かせていましたね。
 念願のバークレー校では統計学を専攻、卒業後はデロイトトーマツコンサルティングのNYオフィスに就職しました。当時のアメリカはITバブル期で、企業がこぞって一流大学の学生を接待してリクルートした時代でした。より高待遇な投資銀行からも内定を頂きましたが、同期で日本人は自分一人、1年後には新入社員の半分がクビになるという、はるかにタフな職場を選びました。

 

難病を発病、一命を取り留める

 東京でのプロジェクトを終えてから、株式会社ぴあの香港マカオ事業で、そのエリア初の日本語情報誌を出版しました。その後、ファンド立ち上げのLCC国際航空会社という、世界初のビジネス形態の事業に関わりました。このベンチャープロジェクトとその後の展開は、一年で営業停止、既得権益との戦い、訴訟勃発など、とても一言では語り尽くせないほどハードで、いつか本に書いて欲しいと言われているほどです。
 マカオ在住中の2009年、特定疾患難病である免疫疾患という大病を発病しました。丸一日休める日がほぼないという働き方で、不調を自覚しながらも6時間毎に痛み止めを服用し高熱を下げ仕事をするという有様でした。2010年は迎えられないかもしれないという状態まで悪化しましたが、2カ月東京で入院生活を送り一命を取り留めました。
 主治医には、病状は改善したものの、妊娠出産は難しいだろうと言われたのですが、幸い子供にも恵まれました。訴訟などに忙殺されていた時期を心穏やかに乗り越えられたのは、お腹の中でそっと寄り添ってくれていた息子のお陰です。

息子も愛用している「YUKI マスク」。私のパワースポット「Kalm Salon」。23 年以上前の LA での父との写真。ドレスは、亡き母の贈り物で今でもお気に入り

 

シンガポールでの新規事業、「さくらまつり」と似顔絵アプリ Mooone

 2010年、ずっと遠距離結婚生活を送っていた夫の赴任先シンガポールにやってきました。現在、当地で起業した事業の一つPresentation Plusでは、日本語を母語としない顧客の対日ビジネスを支援するサービスを提供しています。そのご縁で、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイの「さくらまつり」で日本から桜を運んでいます。誰もが喜んでくれる日本テーマ の庭といったら桜しかない、と思い至ったものの、南国で桜なんて無理と周囲は大反対。「絶対咲きます!」と言い続け、日本の素晴らしいチームとありとあらゆる手を尽くした結果、見事にフラワードームで桜が開花、以来2016年から毎年開催されています。シンガポール国内だけでなく、隣国からも桜愛好家たちが大勢訪れています。
 もう一つのメイン事業は、Mooone(ムーン)という似顔絵アプリの開発製作です。日本のアニメや漫画には特有の構図や手法があるのですが、その技法の粋を生かしています。本アプリで使用している、データ容量を使わず低コストで動画を再生できる技術と広告の手法で日本とアメリカで特許を取得しており、ライブストリーミング配信事業業界に注目していただいています。年齢や性別、国籍、言語を超えたノンバーバルなコミュニケーションツールになれば、という思いも込められています。

自社アプリ「Mooone」で息子が作ってくれた私の似顔絵。パラパラ漫画のようにも作成できる

 

余命の覚悟から、ファスティングによる体内変革へ

 今年4月のサーキット・ブレーカー中、以前から経過観察していた症状が思わしくなく、現状のままでは恐らく長くはないだろう、と。新しいことに着手するのを止め、終活を始めようとしていた矢先、ファスティングに出会いました。昨年から、運動と腸活のトレーニングを受けていたフィットネスサービス「REXE(リグゼ)」で、不定期に試していたファスティングを5月から毎月連続で試したところ、8月の精密検査で劇的に状況が改善されたのです。まさに奇跡でした。
 腸内には約100兆個の細菌があり、それらが自分と共生しているのだということ、腸が喜ぶ状態を作ることで体が良好に保たれるということを、身を以て知りました。ファスティングで大切なのは、正しく行うことなんです。さもないと毒にもなりえます。私が行っているのは1回9日間のコースで、準備期間3日、ファスティングドリンクを摂取する3日、回復期3日です。空腹に慣れていないと初日から辛いかもしれませんが、私は消化する力が弱く、普段から空腹状態の方が楽なので、ファスティング中はものすごく体が元気なんです。そんな私でも、流動食で食欲に火がつく回復期は辛いです。でも、乾いたスポンジのような状態になっている体にいいものだけを取り入れるこの時期こそ、最も重要なんです。
 今後、ファスティングマイスターの資格を取って、ローカルや海外にも展開したいと考えています。大げさですが、これが全人類を救えるレベルの正しいファスティングであるなら、大いなるポテンシャルを秘めていると思っています。でも、ファスティングは、すべての人に必要で有効とは言いきれません。私にとっては、ファスティングなしで健康でいられる人が羨ましいくらいです。

REXE(リグゼ)のグループトレーニング。皆んなでワイワイ楽しく身体を鍛えている

 

多種多様な分野のプロたちと共に

 前述の「さくらまつり」やアプリ開発のほか、日本酒の魅力をローカルの人たちに紹介するというメディア「Sake Plus」のファウンダーメンバーや、厳選されたファインダイニングを会員様にご紹介する「招待日和」のシンガポール担当として、様々なプロジェクトに携わっています。私はそれぞれの分野ではまったく門外漢ですが、専門分野でトップになれる才能のあるプロフェッショナルたちと組むことで、トップになれるチーム力を発揮できていると思っています。一つの水槽に入れられたいくつものボールが、プロジェクトの要素を表すとするならば、私はその隙間を満たす水のような存在だと思っています。ボール同士は融合しないけれど、水が入って満杯になると一体化して機能できるのではないか、と。何かに取り組む情熱、牽引する力、できると信じてやり抜く熱量が魅力的だと言っていただいて、プロジェクトにお声がけいただくことが多いです。私にとっても、プロジェクトの魅力はイコール、そこに関わる人たちの魅力です。実際、日本酒を飲まなかった私が「Sake Plus」に関わるようになったのも、延々と日本酒の話に花を咲かせる人たちがとても素敵だったからなんです。

 

人間の手によって変えられない部分は、問題視しない

 コンサル時代に学んだのは、何か問題が起きた時は、その現象ではなく、根本となる原因にアプローチする手法です。その対象から度外視すべきは、性別、年齢、宗教、人種、文化、国籍など、努力では変えられないあるいは変えづらい要素です。変えられないものが原因で起きている問題よりも、人間の力が及ぶ部分に改善点を求めるべき、というのが私の仕事上のポリシーです。
 また、できるだけ何にも縛られない状態でいることを重視しています。私にとって、自由であることとは選択肢を持っているということです。息子には、「今から、フリーダムポイントを集めておくんだよ」と伝えています。若いうちに努力して将来使えるポイントを貯めておけば、きっと有効に使える時が来る、と。大人になったら1の努力で1ポイントしか貯まらないけれど、若い時は1の努力で10ポイント貯まるし、大人がポイントシェアしてくれる、だから「選択に迷ったなら、簡単なことより難しいことを選んでみたら」と息子に話しています。

 

心身ともにピカピカで穏やかな幸せのために

 最近ようやく体調に自信が持てるようになり、このまま幸せに穏やかに長生きしたいという気持ちで一杯です。強い気質の家族で育ち、私も気が強いので人に柔らかく優しく接したい、そのためにはギブ&ギブくらいの気持ちでいないと、と思って生きてきました。でも、大切にしたい人を大切にすればいいんだ、ということに気づいたら、楽になりました。ファスティング中は仕事のアポは入れないようにしていますが、ファスティング中でも一緒に時間を過ごせる家族や友人たちこそ、大切な人だと考えています。そのために、心も体もピカピカに保って幸せに暮らしたいな、と思います。

 

オススメの一冊

『人のビリー・ミリガン』
(ダニエル・キイス著、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)


お勧めかどうかは別として、単純にずっと記憶にある一冊です。アメリカに渡った頃に読んで以来、何度も読み返しています。解離性同一性障害だったビリーの話を読むうちに、いくつかの異なる人格が存在するという状況は、誰にでも起こりうると感じました。世の中には、どんなことも起こりうるんだ、と。


取材・文 小林亮子
日本の映画業界で約10年働き2006年から在星。ローカル学校に通う二人の子育てのかたわら、執筆・通訳翻訳業や、バイリンガル環境の子供たちに日本語を教える会社を経営

 
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