2020.10.01
【現場読解】
シンガポールや日本を拠点にグローバルな舞台で活躍するリーダーたちが、人生やビジネスについての信念や情熱を語る!世界の未来を担う人たちにヒントをあたえてくれる「オススメの一冊」も紹介。
《第12回》
「好きなことしかやってきていない」という加藤氏のこれまでの人生の軌跡は、伺えば伺うほど ʻ戦略ʼ によって点と点が見事に結びついてきたことがわかる。eコマース(以下、「EC」)が失敗を回避するのに不可欠だという、その ʻ戦略ʼ の極意を聞いた。
加藤 秀典 さん
1977年東京都出身
正則学園高等学校卒業
在星 3年目
尊敬するリーダー/エルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナ
モットー/とにかくやってみる。工夫する。
E COMMERCE SYSTEM SOLUTION
お問い合わせ/info@ecommerce-ss.com
所在地/10 Anson Road, #41-03 International Plaza, Singapore 079903
従業員/4名(2020年 9月現在)
資本金/約1000万円(SGD 150,000)
事業内容/システム開発・eコマース事業
高卒後に蕎麦屋の経営で失敗、NYでウェブデザインの世界と偶然出会う
実家が亀戸で料亭をやっており、経営全般やおもてなしの精神など、サービス業の基礎は小さい頃に自然に身につきました。高校卒業後、家業の一つだった蕎麦屋で板前と経営を任されました。当時かなり儲かっていたので、若気の至りで売り上げをバンバン使っていました。しかし、消費税納税の事を知らず、次期に多額の請求が来てしまい支払い不可能な状況になり、代表取締役だった祖母が肩替わりをしてくれましたが、「お前はもうやめろ」と言われ、店を潰してしまったんです。
そこできちんとビジネスの勉強をしようと、ニューヨークのビジネス専門大学に留学しました。元々海外志向の家庭環境で育ち、ロンドンにある暁星国際中学に通っていたこともあり、英語はそこそこできましたから。
アメリカではビジネスの勉強の傍ら、本場のアートやデザイン関連の人間関係が広がりましたね。彼らと共に過ごすことで、どんどんデザイン分野への興味が増していきました。ウェブデザインの世界があるのを知ったのもこの頃です。全部独学で覚え、帰国後にウェブデザイナーとしてキャリアをスタートさせたんです。
フリーのウェブデザイナーからシンガポールへの道
フリーでウェブデザインの仕事を請け負ううちに、サイトを作るために必要なコーディングや HTML も独学で覚えました。さらに、問い合わせが少ない、訪問客数が伸びないなど、クライアントから様々な相談を受ける中、解析方法や情報設計(IA)などウェブプロデューサーのスキルを身につけました。2004年にはコンサルティング会社ペンシルに入社し、本格的にコンサルのノウハウを得て 3 年後に独立。しかし、独立前にお付き合いのあったクライアントから仕事の発注があるだろうという目算は、見事に外れました。3年ほど食いつなぐためになんでもやりましたね。ある時突然、昔のクライアントたちから一斉に連絡が入るようになり、受注が増えていきました。彼らとしては、会社間の付き合いになるので私の経営が波に乗るまで様子を見ていたようです。そこで社員を雇い本格的にコンサル業を拡大すべきか悩みましたが、この仕事で培ったノウハウを生かすより良い仕事はないか?と考え、当時まだ発展途上だったECのシステム開発に乗り出すことにしたんです。
飲食店の予約システムや簡易的なECを作る中、2011年にアパレルのシステム会社を経営していた友人から声がかかり、自分の会社を休業してそこに就職しました。アパレル業界についてとことん勉強し、旧態依然としていたシステム改善のためシステムだけでなくMD(マーチャンダイジング)などのコンサルも行いました。5年を経て再び独立しアパレル業界のシステム業務を続けるうちに、Life’sというブランドのコンサル全般と海外マーケット開拓の仕事を請け負う仕事が舞い込みました。多くのブランドは人口の多い中国を主なターゲットにしていましたが、各国人口は多くはないがトータル的には規模の大きい東南アジアマーケットにポテンシャルがあるのではないかと思い、2018年にシンガポールで起業するに至りました。
なぜ通販サイトは失敗するのか?
実店舗と EC の大きな違いは、前者は来てくれた人にしか売れないが、後者はネットを通してより大きなマーケットをターゲットにできるという点です。COVID-19の影響も追い風となって、今ECマーケットは急激に伸びており需要も高まっていますよね。でも実はそこが大きな落とし穴だと感じています。ほとんどの企業が国からの助成金を得られるため、流行のように EC を立ち上げていますが、その殆どが基礎知識や戦略を持たない見切り発車のようで、いずれコロナが落ち着き通常の市場に戻っていくと、なかなか効果が出ないと判断し、一年後は EC をたたむところが続出するのではないかと思っています。
ECにも、実店舗開店以上の準備と労力が必要です。基本的な作業である経理・仕入れ・販売・顧客管理・商品発送手配梱包・倉庫管理などだけでも業務内容は会社経営に匹敵します。また大事なのは*O to O戦略でECと実店舗の双方間のトラフィックを活性化させ送客をするシナリオをいかに作るかという事です。
今のECを見ていると「物を売る」ことだけに特化している方が多すぎるように思えます。小売店の販売とECの特性を理解されていないようです。ECの特性をしっかりとわきまえ、ユーザー目線で対応しないと、利益は望めません。EC というプラットフォーム上にどうやってトラフィックを発生させ、トータルのサービスで彼らをファンにさせ「売る」のではなく「売れる」構造を作るかを考える必要があるんです。特にECでは画面上での接客が基本なので、だからこそ小売店商売とは違った戦略が必要になります。消費者の立場に立つことはもちろんですが、お客様がその商品の購入を悩む理由はどこにあるのか?などを常に考え、商品自体の味や香り、ファッションであれば色やサイズ、自分のような体型の人が着たらどんな風に見えるかなど、実際手にとって見られない分、お客様が納得して購入に至るECならではの体験(例えば『ささげ』(撮影・採寸・原稿)での商品提案の工夫)を提案していく必要があるのです。実際やってみるとECは他の仕事と兼務しながら片手間でできるような仕事ではない事がお分かりになるかと思います。
*O to O = Online to Offl ine の略。マーケット戦略でインターネット(Online)上の施策とイベントや店舗などのフィジカル(Offl ine)の施策を繋ぎ合わせて効果を最大化する方法のこと
「集める・売る」のではなく「集まる・売れる」サイトをいかに作っていくか
僕が提唱していることの一つは、ターゲットユーザーを想定してペルソナ設計をすることです。どんな好みでどんな行動パターンか、優先事項は価格か品質かブランド力かなど、徹底的に細分化します。コアターゲットのみならず、現時点では非ターゲットとみなす若年層にも植え付けできる方法を考えます。起承転結で定義付けているのですが、ʻ起ʼ は集客のためのマーケティング戦略はなにか、ʻ承ʼ は訪れた客をどうサービスすべきか、ʻ転ʼ は商品を購入して手に取るまでにどういうプロセスが必要か、最後の ʻ結ʼは購入者がどうしたらリピートしてくれるか、です。実店舗からウェブへの誘導、ウェブから実店舗への誘導、トータル的に一つのビジネスとして考える方法を提案しています。
「集客したい、売りたい、の一心ではダメ」だと僕は思っています。よく見受けられるのが、集めるため、売るための広告やプロモーションをし、他店より値段を安くしたりバウチャーなどの付加価値をつけていこうというものです。ただそれをやって Amazon や Lazada に勝てるでしょうか?大切なことは、まず「このサイトに来ると他とは違う有益な情報や提案がある」とお客様に感じて頂くことです。そうすれば人は自然と集まってきます。お客様を集めるのではなく集まるお店造りをする、売るのではなくて売れるためのサイト造りをするというマインドが大切だと思います。
とにかくやってみる、課題をつぶしていく
人は向上心がなくなった時点でビジネスとしては負け組に入ると考えています。5年後あるいは10年後どうありたいか、いつも考えています。そのために必要なスキルはなにか、常に向上心を持って自分の人生を切り開いていこうという姿勢は、経営者の中で育ち培われたのだと思います。とにかくやってみる。工夫をして課題をどんどんつぶしていく。そして挑戦し続ける。それに尽きます。
最近ECについてのご相談を受ける事が多くなりました。ですのでウェブビジネスの概念をより深く理解してもらえるよう、近々セミナーを開催する予定です。皆様の抱えているご苦労やお困りのことについて一緒に取り組みたいので、ウェビナーではなく対面でやる予定です。
今後は、東南アジアを市場にシステム開発に注力していく予定です。システムの内容は企業秘密とさせてください(笑)。まだ誰もしていないことなので。コンサルの仕事を通じて、幅広い業界の市場調査、マーケティング調査、動向調査を重ね、価値あるノウハウを培ってきたので、今後の新規事業にも必ず役立っていくだろうと思っています。
オススメの一冊
『ポスト・オフィス』(チャールズ ・ ブコウスキー著、 幻冬舎)
ブコウスキーの自伝的小説と言われている本で、主人公はものすごいダメ人間なんです。欲望の塊で、酒が飲みたかったら飲み、セックスしたかったらする、仕事したくなかったらしない。根本的な生き方は違うけれど、やりたいことしかやっていない点は自分と似ていると思いました。登場人物たちへの洞察力が面白く、僕より面白い生き方をしている人がいるなあ、と。
取材・文 小林亮子
日本の映画業界で約10年働き2006年から在星。ローカル学校に通う二人の子育てのかたわら、執筆・通訳翻訳業や、バイリンガル環境の子供たちに日本語を教える会社を経営
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