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2020.06.02

【現場読解】

シンガポールや日本を拠点にグローバルな舞台で活躍するリーダーたちが、人生やビジネスについての信念や情熱を語る!世界の未来を担う人たちにヒントをあたえてくれる「オススメの一冊」も紹介。

《第8回》

幅広い仕事に挑戦し続ける中で、常にベストを尽くし確固たる学びと成長を得ながら次なるステップを導ける人、それが神田さんだ。強い意志とエネルギーがみなぎる生き方の秘訣と機動力の源について語ってもらった。


神田 かの子 さん
1980 年東京生まれ
中央大学総合政策部卒業
在星12年目
尊敬するリーダー/両親
モットー/Positive, active, attractive

CROSSCOOP SINGAPORE
www.crosscoop.com/office/singapore
所在地/80 Robinson Road, #10-01A (S) 068898
資本金/約 3400 万円(SGD 450,000)
従業員/3名(2020 年 4 月現在)
事業内容/シェアオフィス事業・会社設立サービス事業


ビンタン島で学んだ、与えられた環境でベストを尽くす仕事術

 大学時代、第二外国語にマレー語を選択しました。将来の仕事のためという発想はなく、アルファベットなのと温かみのある響きに素直に惹かれたんです。ジョホール州に2週間ホームステイしたりマレー料理レストランでアルバイトしてさらに上達し、マレーシア人たちとどんどん会話できるようになっていったのがとても嬉しかったです。

 大学卒業時は就職氷河期で正規雇用は難しく、派遣社員としてキャノン本社のギャラリーで受付・案内を担当しました。そんな中、ホスピタリティ業界の国際展示会でブースを訪れ、履歴書を送っていたビンタン島のバンヤンツリーから、10カ月経って突然電話があり、「ポジションがあいたので面接しないか」と言われました。実は学生時代に、シンガポールに赴任していた従兄弟を訪ねた際ビンタンを訪れ、バンヤンツリーで働く日本人女性の姿を目にして、こんな仕事もあるんだ、と思ったのが最初の出会いだったんです。

 採用が決まり即ビンタンに赴任しました。新しい環境はすべてが新鮮でワクワクしましたが、苦労も山ほどありました。勤務は週6日、社員寮の周りはジャングルで移動は不自由、インターネットもお店もない状況でした。マレー語とインドネシア語は似ていると聞いていたので、言葉はなんとかなると思っていましたが、実際はそうでもなかった。英語を話せるのは一部の人たちだけで、ローカルスタッフたちと仲良くなるためにインドネシア語を独学しました。温かく受け入れてくれた現地の仲間に囲まれ、仕事で少しでも役立ちたい、彼らをもっと理解したいと いう気持ちで、毎日楽しく頑張れていたと思います。ビンタンでの経験から、指示がなくとも周りを見て自分で考えて行動をとるスキルが身につきました。

シンガポールとジャカルタのハードなホスピタリティ業務

 居心地の良い職場で、今の私の礎になる体験に恵まれましたが、外国人スタッフとしてのキャリアアップには限界があると焦る気持ちが芽生え、2年弱務めた後シンガポールのシャングリラホテルに転職しました。VIP宿泊客専用のバレーウィングに配属され、1カ月みっちり厳しい研修を受けて、五つ星ホテルのトップクオリティのサービスをとことん学びました。一方 で、ストレス過多な環境の中、シンガポールの職場のペースにかなり萎縮しました。次の転職先、ジャカルタのインターコンチネンタルホテルでは、ビジネス目的で滞在されているお客様特有のニーズがあることを学びました。お客様のチェックインとチェックアウトの時間に合わせて、勤務時間はまさに24時間体制。ホテルの中の1室で生活し同僚に部屋を掃除してもらうという、プライバシーゼロの窮屈な日々の中、お客様からは感謝の言葉よりも苦情の方が多く、メンタルが崩れて体が悲鳴をあげました。

引きこもり生活で、シンガポール生活再開のエネルギーをリ チャージ

 一旦帰国し1年近く引きこもりました。それまで、自分を極限まで追い込みがちだったので、挑戦したい気持ちとそれを落ち着かせる心のバランスをとる大切さを痛感しました。アロマオイルマッサージやタヒチアンダンスを習い始め、少しずつやりたいことができるようになり、派遣で仕事も再開しました。日本の会社組織の環境で働くのは初めてで、ドラマの世界のようなお局様や働かない社員がいたりして、何もかもが目新しかったです。

 そのうち、もう一度海外で自分の力を試したい気持ちが起こり、当時シンガポール人と恋愛していたこともあり、えいやっと観光ビザで来星しました。2週間の滞在中に求職活動をし内定を頂いた3社の中から、JTBを選びました。面接で出向いた際、店頭スタッフたちが笑顔で仕事をしていたのが決め手になりました。約7年勤め、今までで最長の在職期間です。

現地採用として上り詰めた後、グローバル人材としての自分を試すステージへ

 JTBでは、店頭販売からオペレーション業務を経て、商品企画部へ転属しました。店舗での経験を生かし、お客様のニーズと売りやすさを心がけ、どんどん商品を造成していきました。売り上げも伸び、当地でのJTBの認知度アップにも貢献できたと思います。最終的には商品企画・マーケティング部アジアパシフィックリジョンのアシスタントマネージャーのポジションまで昇進し、東南アジア各地へ商品・素材提供、現地オフィスとの調整、人材教育を担当しました。

 複数の部署や駐在員と現地採用社員の間の調整をしたり、現場スタッフとの信頼関係を築くなど、人をマネジメントしていく楽しさも覚えました。何をすべきか自分で常に考え、仕事は自分で作り出すものだということは、ビンタン島で培われた自分の基礎です。JTBではそれを実践し続け期待に応えることで、チームもまとまり他部署からも信頼を得て、メンバーのモチベーションにつながることを学びました。それぞれがベストを尽くす環境を作ること、さらに上司・会社に価値を証明し、環境を整え続けることが自分の仕事だと感じたときでした。その意味で、自分のポジションがこれ以上上がっても、現状を超えた環境は整えられないと思ったのが、転職のきっかけとなりました。次は日系以外の土俵でどこまで通用するか試してみたいと考えました。そこで、半年以上前から、転職予定の日本人営業の方が、「後任にはあなたしかいない」と声をかけてくださっていた、フレイザーホスピタリティのセールスマネージャーのポジションに就きました。

 シンガポール人ばかりの職場で、目の回るようなスピードに揉まれながら、ホスピタリティ業務の中で唯一未経験だった営業職に挑戦しました。東南アジアの日系マーケット営業統括として、新規開拓のために頻繁に長期出張しました。ゼロからアプローチしなければならず、相手に拒否されるかもしれない怖さが常にあり、最初は電話の手も震えたほど。毎日4時に起き、メールのやり取り、外回り、報告書の作成などに夜まで追われるハードな生活の中で、人生とキャリアのバランスを考えさせられましたね。自分のためだけに頑張っていることに疲れ、誰かを支えながらその人に喜んでもらいたいと感じました。丁度その頃結婚したこともあり、一度仕事を辞めてリセットしたんです。

これまでの経験すべてを生かせるクロスコープでの新たな挑戦

 仕事復帰に際し、これまで経験した業界も含めていくつかオファーを頂いていた中、信頼していた方から、「今までやってきたことを色々なことに活用できる人だから、培ったものを様々な人たちに還元していくべき」とアドバイスを頂き、未経験の業界だったクロスコープに決めました。オフィスマネージャーのポジションを任され、営業、マーケティング、商品開発、オペレーション、カスタマーケア、経理、人事まで、経営に関わることすべてを手がけています。チームをマネジメントし、新規のルールは自分たちで導入し、理想的な仕事環境を実現できている と感じています。

 配属先の上司や同僚など、与えられた環境は変えられません。その中でいかにベストを尽くすかが鍵です。上司の指示が不服でもあくまで任務は遂行し、うまくいかなければ自分が次の仕事で活かせばいい。常にベストを尽くせば誰かが必ず見ていて、それが次につながっていきます。

 東南アジアに進出してくる日系企業の中には、ローカライゼーションの認識が甘いと感じる会社があります。日本のやり方を通すのではなく、ターゲットとする国と人々のことを知り、生活を味わわないといけない。彼らの目線に立ち、自分だったらお金を出したいか、どんな売り方が適しているのか探っていくべきだと思います。

持っているものをすべて共有すれば、自分にも戻ってくる

 人に喜んでもらいたいというシンプルな気持ち、「ありがとう」の温かい言葉や笑顔をかけていただけることが私のやる気につながっています。そのために、持っているものをすべて共有する。すると、自分にも戻ってくるし、人はついてきてくれるし、利点が多いです。また、好きなことに突き進んで生きることの大切さを教えてくれたのは両親です。母は35歳からお菓子作りを始め、ケーキ屋さんで修行して60歳で独立し、自由が丘で洋菓子屋さんを経営しています。数学の先生だった父からは、プランニングと時間管理の発想を小学生の時に叩き込まれました。両親の存在は、私の機動力の源です。

ビンタン島での勤務時代にフロントデスクのチームと。人命救助、コミュニケーション力、身だしなみや歩き方、自己啓発・メンタルケアなどいろんな研修を受け学んだ日々

JTB 時代には、旅行博のブースデザインから他企業とのタイアップ、当日の他社商品や販売動向のチェックも含め販売サポートを任される。ほか、マーケティングとして記事広告の作成のため多くの視察旅行をし、当時はまだなかったスリランカやミャンマーなどの新しい経験を盛り込み売り上げに貢献する

来星以来、続けているというタヒチアンダンス。 様々な場所でパフォーマンスを経験するもやはりビーチでのダンスが格別という。写真は世界カヌー大会にてビーチで踊った時のもの。これからも長く続けていきたい趣味だと語る

オススメの一冊

『HBR Guide to Project Management』(Jeff Stibel・著、Harvard Business Review Press)


 2013年、JTBで初めてプロジェクトを任された時に出会った本です。紀伊國屋でprojectとタイトルに付く本を探していた時、“Motivate your team”の一行を読んで、これだと思ったんです。苦手な上司や他部署の知らないスタッフ、言葉や民族性がバラバラな人たちをまとめるという任務のヒントとなりました。どんな言語レベル、バックグラウンドの人たちにもわかりやすい指示の出し方、問題が生じたときの対処の仕方なども紹介され、今のマネジメントにも役立っています。


取材・文 小林亮子
日本の映画業界で約10年働き2006年から在星。ローカル学校に通う二人の子育てのかたわら、執筆・通訳翻訳業や、バイリンガル環境の子供たちに日本語を教える会社を経営

 
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