2019.11.01
【現場読解】
シンガポールや日本を拠点にグローバルな舞台で活躍するリーダーたちが、人生やビジネスについての信念や情熱を語る!世界の未来を担う人たちにヒントをあたえてくれる「オススメの一冊」も紹介。
《第3回》
「子ども達の今と未来を幸せにする」を模索した結果、EISインターナショナルプレスクールを始め、キッズルー&ママルーや学習塾KOMABAが生まれた。常に‘今大切なこと’を追求し続ける峯村園長に話を聞いた。
峯村 敏弘 さん Toshihiro Minemura
1960年生まれ
在星23年目
尊敬するリーダー/誰か特定の人ではなく、その人の成したことを尊敬するようにしている
モットー/『精一杯の自立』
Eis International Pre School Pte Ltd
www.eisintl.com
所在地/Sentosa校 31 Allanbrooke Road Singapore 099980 Tel:6777-2911
/イースト校 7 Seraya Lane Singapore 437275 Tel:6348-4780
従業員/55名
園児/230名
事業内容/日本語・英語バイリンガル幼稚園・保育園
子どもが生まれて、幼児教育の大切さに気づく
ずっと塾畑で働いていて、1998年に来星したのも塾の講師としてでした。受験指導をし、どうしたら偏差値が上がるか考える仕事は、自分に合っていたしとても楽しかったです。でも、自分の子どもが生まれたことで、次第に気持ちが変わっていきました。勉強は子どもたちが幸せになるため、世の中の見方を広げていくためのものであるべきなのに、それを飛び越えて問題の解法や暗記法ばかりを教えるのは、ちょっと違うのではと感じるようになったんです。勉強の前にもっと目を向けるべき点があるのでは、と。自分の子どもを通して、幼児教育の大切さに気づきました。
自分の子どもを通わせたい、という父の目線で作った園
父親として、自分の子どもに受けさせたい教育を実践する幼稚園を目指し、当園を作りました。創立から15年、園のモットーは「子ども達の今と未来を幸せにすること」だと言い続けています。開園当初は、具体的に何ができるようになるのか、というご質問を受けることも多かったですね。幸せになるために一番欠かせないのは、自分で考えて判断して行動する力だと考えています。そのためには、面白そう、どうなるんだろうという ‘やってみたいエネルギー’を培って、思考力と想像力をつけていくことが不可欠です。2020年の教育改革に向かう流れの中で、自分の考え方をしっかり伝えることが重視されつつあり、園のメッセージを理解してもらえるようになってきたと感じます。
シンガポールにおけるメリット、デメリット
国土の狭いシンガポールでは、場所の確保の難しさと借地料の値上がりが、経営上の一番の難題です。一方で、多民族国家ならではのよさもあります。園では、日本人の先生1名とローカルの先生2名が、合同でクラスを担当しています。様々な人種の先生から自信と安心感を与えてもらう体験ができることは、この地にいる最大のメリットです。開園当初は、ローカルの先生達になかなか園の方針をわかってもらえないこともありました。行事の後に反省会をすると、批判と受け取られてしまい、次回の質の向上を目指すという主旨が伝わりませんでした。次第に、日本人の慣習を受け入れてもらえるようになり、勤続年数が長いローカルの先生がたくさんいます。今後ますますグローバル化していく世界に羽ばたいていく子ども達にとって、多様な人種の先生と関わったり、様々な国や文化の違いを感じることはとても貴重です。
大人達に伝えたいこと
子どもを信じるということは、嘘をつかない子や真面目に取り組む子になることを目指す、ということではありません。自分の子どもが幸せにまっすぐ育っていく、そのことを信頼すべきだと思っています。子どもがテレビを見ているときに「宿題やったの?」と聞けば、当然「もうやった」と言います。終わっていないことが知れたら、テレビを消されてしまうので。子どもが嘘をついているのではなく、大人が子どもに嘘をつかせているんです。子どもをコントロールする前に、自分をコントロールすることが大切だと思います。
「何度言ったらわかるの?」という叱り方もナンセンスです。何度言ってもわからないということは、言い方を変えない限り子どもたちは理解できないし、やるようになりません。これは、会社組織にも当てはまります。何度言っても部下がわかってくれないなら、その上司はやり方や言い方を変えないと、人を動かすことはできません。
親の感情だけでやらせようとしても、そこに合理性がないと子どもは動きません。子どもは本当のことを知っているので。本当に重要なことかどうかきちんと言葉で伝えれば、子どもは自分で判断するはずです。
「社会貢献ができなければ、商売をすべきではない」と信じて
会社経営で一番重要なのは、社会貢献だと考えています。利益を生むことも勿論大切ですが、社会に対してどんな貢献ができているか、常に意識しています。目の前の社会に足りないものや必要なことを、何とかできないものかと考えることにより、社会貢献できることを見つけ出し市場のニーズが見えてくるのだと思います。
渋沢栄一の「論語と算盤」という本は、幼稚園経営にとって大きな指針となりました。彼は、社会貢献ができなければ商売をしてはいけない、と言っています。お金だけ追ってしまうと、下手な手を打ってマイナスを作ってしまう、しかし理念通りにやっていけば、失敗しても次の展開は必ず待っている、と。今世の中で何が足りないのか、シンガポールの幼児教育において何が足りないのかについて、信念を持ち続けることが必要だと考えています。
受け取った愛情を腐らせないために
愛情は受け取ったままでいると腐ってしまうんです。愛情が腐ると、気持ちが不安定になったり暴力的になったりします。精神的なバランスを取るためには、もらった愛情はちゃんと出していく必要があります。園で動物や植物を育てているのは、他の命を大切にする気持ちを持ってほしいという思いからです。また、例えばクラスの中に障害をもった友達がいるとします。あまり注意されないのはなぜかと考える。そこで、自分の精一杯とその友達の精一杯は違うんだと子ども達が理解して、外に出る準備をするのを待ってあげたり、手を貸してあげられる。このように、段々と自然に愛情を出していけるようになるんです。かつて、園児の一人が自閉症と診断されたことが、その後の園の考え方が大きく左右しました。園児たちも先生たちも学ぶことが実に多いとわかり、それ以来積極的に障害を持った園児を受け入れていこうと考えるようになりました。
ろうそくの火が消えると、水が吸い上げられていく様子を観察。興味津々な表情を浮かべる子ども達
園での活動を通して子ども達はいろいろなことに興味を持ち、日々学んでいる
自然あふれる環境の中、子ども達は日頃から自然にふれている
オススメの一冊
自閉症の東田さんが13歳の時に書いた本です。障害者に対する理解を深めるきっかけになりました。東田さんの考えがしっかり綴られており、一番嬉しいのは一緒にいることを喜んでもらえること、という言葉が心に刺さりました。みんな違っていていい、違っている人たちが一緒にいるから幸せ、という思いで園を経営してきてよかったと思いました。健常と言われる子ども達が、障害を持つ子ども達から恩恵を受ける部分もとても大きいんですよ。
『自閉症の僕が跳びはねる理由』
著者:東田直樹
出版:エスコアール
※写真は同著者による2014年出版『跳びはねる思考』
取材・文 小林亮子
日本の映画業界で約10年働き2006年から在星。ローカル学校に通う二人の子育てのかたわら、執筆・通訳翻訳業や、バイリンガル環境の子供たちに日本語を教える会社を経営
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