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2017.07.20

日系企業の進出が続いているシンガポールの飲食業界にあって、近年急成長を遂げているのが『和食五縁』『焼肉王』などを運営するJFORT(ジェイフォート)だ。積極的な店舗展開やSNS を巧みに使った営業戦略など、同社が短期間で大きく業績を伸ばした背後には、日本の飲食業界で広く名前を知られた“成功請負人” の存在があった。

Hisashi Matsumoto
高校卒業後レストラン勤務を経て、居酒屋チェーン最大手の株式会社モンテローザに入社。キッチンスタッフからの叩き上げで事業本部長まで昇進し、女性客を対象にした宴会プラン“女子会” を考案するなど辣腕を振るう。2014年からシンガポールに活動の拠点を移し、日本食チェーン店『和食五縁』『焼肉王』などの運営にあたる。


売上アップのプロフェッショナル

2009年に居酒屋チェーン『笑笑』が始めた宴会プラン〝女子会〞は、それまで女性客だけの需要は少ないと考えられていた居酒屋業界に新たな市場を開いただけでなく、翌年の新語・流行語大賞のトップテンにも選ばれるなど、社会的にも大きな反響を呼んだ。いまやすっかり定着した〝女子会〞というコンセプトを大成功させたのが、現在シンガポールで『和食五縁』『焼肉王』などを運営する松本尚さんだった。

高校卒業後に高級フレンチレストランでコックとして働いていた松本さんが『白木屋』や『笑笑』などを運営する株式会社モンテローザに転職したのは、「仕事をするならお金を儲けたい。それなら職人をやめて商人になろう」と思い立ったからだったという。最初は調理スタッフとして入社したが、コックとして腕を磨いていた松本さんにとって居酒屋のメニューを覚えるのは容易く、わずか1週間ですべてのメニューをマスターしてしまうと、入社数カ月後には店長に昇進した。

最初に店長となった店舗は前年比マイナス40%という低迷店だったが、松本さんは売上低迷の理由を突き止めてすぐにプラスへ転換させた。その後も関西地方の様々な低迷店に店長として派遣されると、次々に売上を回復させていった。
「僕は物事を研究するのが好きで、どうしてこの商品は売れるのか、どこに看板を置けば客を誘導できるのか、どうしたらお客さんがリピーターになってくれるのかといったことを常に調べて、日々ノートに書き留めていました」

関西地方でトップの店長となった松本さんは、23 歳で社内最大規模の新宿店の店長に抜擢されると、ここでも過去最高の売り上げを記録。さらに抜群の成績が認められて複数店舗を担当するエリアマネージャーに就任すると、担当地区での新店オープンを次々と成功させて猛スピードの昇進を果たしたが、社内の派閥争いに巻き込まれて降格の憂き目にあってしまう。

しかし、左遷先の担当地区に社長の肝入りで作られた焼肉店があったことが松本さんに幸いする。赤字続きで閉鎖が検討されていた同店に食べ放題を導入することで、わずか1ヶ月で前年比 300%という驚異の売上アップを記録したのだ。この成功によって社長からも手腕を認められた松本さんは、日本全国にある店舗の業績回復を図るポジションに大抜擢されることになった。

ライバル企業の出店攻勢もあって、当時のモンテローザは2期連続の赤字に苦しんでいたが、松本さんが率先して取り組んだPR活動や新業態の開発、タッチパネルの導入による人件費削減、立地条件を考慮した店舗別価格の設定、さらに大評判となった〝女子会〞の立ち上げなどにより、会社の業績はV字回復を達成。松本さんの手腕は業界内だけでなくメディアからも注目を集めたが、経営者の世代交代によって次第に社内での立場を失い、営業部への異動を命じられたことを期に退社を決意した。

鋭いマーケティング力だけでなく、地道な努力を積んでこその成功を遂げてきた

成功の秘訣は消費者目線の徹底

モンテローザ退社後は、知人が経営していた大阪のラーメンチェーンの運営に1年間参加。その後、シンガポー ルで飲食店の開業を考えていた投資家からの誘いを受けて、自分も新会社に出資することを条件に来星を決めた。
「シンガポールは家賃や人件費、光熱費が高く、輸入に頼っているため食材も高額なうえ、多民族国家なので人々の味の好みもバラバラという、世界でも5本の指に入るくらい飲食業を成功させるのが難しいマーケットです。ここで成功すれば、他の東南アジア諸国はもちろん、世界中どこでも成功することができるでしょう。だからこそ僕はシンガポールを選んだのです」

2014年 11 月、ウィスマアトリアに1店舗目となる『うどん五縁』をオープンしたが、開業後しばらくは赤字続きだったという。シンガポールに来る前の話では好きにやれるという話であったが、店舗の業態、日本人向けの味、価格、場所など飲食の根幹部分は自由にすることができず、松本さんは既定の方針に従って店舗をオペレーションするしかない状況だったのだ。

経営立て直しのために松本さんが打ち出したのは、カレーを軸に据えた大幅なメニュー変更だった。さらにフェイスブックやインスタグラムなどのSNSが大好きなシンガポール人の気質を考て、「写真映え」のする巨大なチキンカツが載ったカレーも考案した。しかもメニュー表の写真ではあえて小さめにしておいて、実物には皿を覆うほど巨大なチキンカツを載せることで、驚いたお客が写真をSNSに投稿するように仕掛け、写真の拡散による口コミ効果を狙った。

さらに新聞記者が同店のカレーを気に入って紙面で大きく紹介したことで、連日長蛇の列ができるほどの大人気を博し、面積わずか4坪の店で月額 12 万ドルという驚異の売上を達成。『和食五縁』はシンガポール国内のフードコートを中心に 19 店舗を展開する人気チェーンに成長した。『和食五縁』の経営を軌道に乗せた松本さんが次に目を付けたのは、日本でも出世のきっかけとなった焼肉店だった。

「シンガポールの焼肉業態を分析した結果、適正価格よりも市場価格が異常に高いことに気がつきました。味のレベルを保ちながら価格を適正なラインに戻すことで、コストパフォーマンスを上げれば、お客さんは必ず来てくれると考えました」

昨年 12 月にテロクアイルにオープンした『焼肉王』では、北海道や宮崎、熊本の生産者から国産牛を一頭買いで直接輸入することでコストダウンに成功。さらに肉の鮮度を保つために切り置きや冷凍保存は一切せず、客からオーダーを受けてから肉を手切りすることを徹底している。味の良さとコスパの高さが評判を呼んで、『焼肉王』はすぐに予約が必須の人気店となり、開業から半年でタンジョンパガーとカッページプラザにも店舗を広げた。

結果を出し続けてきた松本さんのマーケティングを支えている最重要のモットーは、「消費者目線」に徹することだという。
「この味でこの値段だったら自分なら行く、というものしか絶対に提供しません。自分がお客さんだったら、と常に考えることを忘れないようにしています」

『焼肉王』の看板に「松本品質」と掲げているのも、味と値段に対する絶対の自信があればこそ

「松本品質」の看板を世界に

日本の居酒屋業界で見せた辣腕をシンガポールでもいかんなく発揮している松本さんだが、人材の確保が難しい上に離職率も高く、遅刻や欠勤も多いという当地ならではの雇用の問題には悩まされた。そこで松本さんは、遅刻やMC(病欠)が1年間なかった従業員に S$1000のボーナスを自動的に支給するという大胆な対策を打った。さらに食材の発注ができるようになれば給与を何ドルアップさせるといった明確かつ迅速な昇給基準を設け、入社後1年で月給が S$1000アップするというスピード昇給を可能にした。これらの対策によって『和食五縁』や『焼肉王』では、従業員のモチベーションが高く保たれており、離職率や欠勤率が他店に比べてはるかに低いというのも当然だろう。

シンガポールでの事業展開を成功させたことで、松本さんの視線はすでに国外へと向いている。 まずはシンガポール国内でビュッフェ形式の焼肉店をオープンして運営を軌道に乗せることで、「進出には食べ放題が欠かせない」というタイやインドネシアなどへ進出する足掛かりとすることを計画しているという。

「最終的にはパリやロンドンにも『松本品質』の看板を出したい」と力強く語る松本さんの姿には、確固たる実績に裏付けされた者だけが持つ揺るぎない自信に満ちていた。

(インタビュアー・安藤浩久)

元祖らっしゃい系 焼肉王 /やきとりやきとん
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☎6733-1248
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