2016.12.28
目まぐるしく発展するシンガポールを象徴するかのように、アートシーンにも続々とニューウェーブが押し寄せている。旬に詳しい、シンガポール在住 8 年の日本人コーディーネーター・ライターが選りすぐりの注目アーティストを紹介する。
コンテンポラリーアートの勢いがすごい
僕がシンガポールに引っ越して来た 2008 年は、2 回目の「Singapore Biennale」が開催された年で、まさにアートイベントが増え始めている時期でした。特にコンテンポラリーアートの盛り上がりは肌で感じていて、その勢いは今も続いています。気軽にアートを購入できる「Affordable Art Fair」のようなイベントも人気ですよね。 シンガポールのアートシーンの特徴の1つに、最新テクノロジーに感度が高いということがあります。ヨーロッパ等と異なり、技術を積極的に取り入れていく。だから「チームラボ」のような存在がすぐ受け入れられるのだと思います。
欧州でも注目されているザイ・クーニン
シンガポール人アーティストで僕が1 番敬愛しているのは、ザイ・クーニン(Zai Kuning)です。イタリアで開催される「Venice Biennale 2017」にシンガポール代表として出展する彼は、〝異端児〞と称されることもあるユニークなアーティスト。
実は昔のシェアメイトで、前からカリスマ性があり尊敬してましたが、まさかこんなに大者になるとはと驚いています(笑)。社会問題を捉えた作品や、自らのルーツを探るようなもの、マレー文化の様相を映した作品などが多く大好きですね。日本の『オオタファインアーツ』がこちらにもギャラリーを構えていて、そこの専属になっています。
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Zai Kuning の代表作である船のシリー「Dapunta Hyang」。2017 年の「Venezia Biennale」におけるシンガポール館でも展示される。写真は2014 年の『オオタファインアーツ シンガポール』での「We are home and everywhere」の展示風景。Photo by Courtesy of Ota Fine Arts Singapore
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墨と水彩を用いた作品「Ruang yang tersembunyi menyepi – Hidden space in solitary」は、2016 年のもの。
「本物?」と見間違えるフィクションストーリーを作る若手作家
日本でもじわじわ認知度を上げている若手、ロバート・ツァオ・レンフイ(Robert Zhao Renhui) も注目株です。動物や自然をモチーフに、フィクションストーリーを作り出す彼の写真は、絶妙な角度をついてくる辺りが非常に面白い。写真に加工をして〝いかにも実在しそう〞な金魚を作った「World Goldfi sh Queen」は、思わず前のめりになって見入ってしまうインパクトですよね。同様の写真を図鑑風にまとめた作品集も出していて、ひねりが利いた説明書きを読むのも楽しいです。
先日大阪で「UNKNOWN ASIA ART EXCHANGE OSAKA 2016」という、アジア各地の気鋭のクリエイターが集うアートフェアに僕がコーディネーターとして同行したアイウェイ・フー(Aiwei Foo)も、押さえておくべき存在。パブリックとプライベートの間に焦点を当て、新たな「自分」 という存在をモチーフにした作品を作っている女性です。「The Beaming Girl」シリーズ等のアートワークだけでなく、ファッションやテキスタイルなどのデザイナーとして活動も、精力的に行っています。
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見慣れた金魚のようで、よく見ると違う外見が好奇心を刺激する。Robert Zhao Renhui, World Goldfish Queen, 2015 criticalzoologists.org
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殻の中から顔を覗かせるのは魚なのか、それとも・・・。Robert Zhao Renhui, Miracle Fish In Eggs, 2010
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目からビームを放つ少女が雪の上に横たわっている「Semi Private Life in Helsinki」Aiwei Foo
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握り締めた謎の物体が印象的な「An Archaeologist of the Future, Objects of the Past」Aiwei Foo
シンガポールはアジアにおけるアートのハブ
シンガポールという国は経済発展は十分遂げたけれど、文化の規模はまだこれから。国としてアートを盛り上げて行く姿勢を打ち出しており、美術学校などへの助成金もどんどん出しています。規制が厳しい社会ではあるものの、だからこそユニークな才能が生まれるエネルギーに溢れている。今後、アートのハブとして益々重要度を増すと確信しています。
長沢 一郎 / Ichiro Nagasawa
シンガポール在住歴8 年。アートや音楽、飲食店などシンガポールのカルチャーを独自の目線で紹介する「herenow Singapore」のコーディネーター・ライターとして活躍。日本で開かれるアートイベントへシンガポールの若手アーティストを紹介するなど、日星の交流にも積極的に携わっている。