2016.12.28
幼少期は海外、ロックやジャズを聴いて育った
日本の伝統文化である雅楽を継承する家に生まれた東儀秀樹さん。和のイメージが強いが、幼少期はタイとメキシコで過ごした経験を持つ。またロックやクラシック、ジャズなどの音楽を吸収しながら育ったバッグラウンドも持ち、インターナショナルな活動を精力的に続けている。そんな彼が初めてシンガポールを訪れた。ディック・リー、オリビア・オン、シャビル、Sachiyo らと共に日星国交50 周年イベントである「SG-JP Music Mix」に参加し、両国の音楽によるコラボレーションコンサートを行った。
東儀 秀樹 Hideki Togi
1959 年東京生まれ。奈良時代から1300 年以上続く雅楽を世襲してきた家に生まれる。高校卒業後は宮内庁楽部に入り、宮中儀式や皇居において行われる雅楽演奏会などに出演する。以来海外公演にも参加するようになり、日本の伝統文化の紹介と国際親善の役割の一翼を担うように。その一方で、ピアノやシンセサイザーと共に雅楽の持ち味を活かした独自の曲の制作も行っている。
終演後に希望を感じていることが、 大成功の証
「本番前日のリハーサルで、初めて共演者の皆さんとお会いしたんです」 そう明かす東儀さん。事前にプロデューサーでもある Sachiyoさんからそれぞれの情報を受け取ってはいたものの、それ以上調べることはあえてしなかったのだそう。「コンサートの趣旨を理解して集まった方々なので、きっと感情としていいものがあるはずだと思っていました。だから不安もありませんでしたし、それだけで僕には十分でした」 その為、リハーサルでは綿密に準備することは しなかったという。
「僕はライブで呼吸を合わせるタイプなんです。いざ交流した時の刺激が強い方が、予定調和では出来ないものが生まれる。そこで見えるものこそが確かで、最も本気になれる瞬間でもあります。他の皆さんも本番がいちばん集中しているので、お互いの集中度合いを高め合いながらいい空気感を作れる。相手にもっと気持ちよくなってもらいたいというサービス精神も生まれ、初めて共演する人でも『この人の良い部分を見せたい、皆に自慢したい』という気持ちになるんです」
その言葉通り、本番のステージはシンガポールと日本、両方の魅力に溢れた盛り上がりで客席を魅了した。終演後、共演者同士で「また一緒に何か出来そうだね」という会話も交わし合っていたのだそう。携わった人の中に新たな希望の感覚が 残るのは、大成功の証なのだと笑顔で語る。
縁があったからこそ集まった共演者達
ステージの幕開けは、伝統衣装に身を包んだ東儀さんによる雅楽だった。笙(しょう)と篳篥(ひちりき)による厳かな演奏で会場全体を包み込み、その余韻を残しながら、次々に他の出演者へとバトンが渡されていく。世代、人種、ジャンルの垣根を超えた様々な組み合わせでのコラボレーションが披露され、最後は全員によるステージでフィナーレを迎えた。
「今回、こういう企画があったから集まったメンバーではありますが、きっと縁があってのことなのかなと感じています。構える訳ではありませ んが、自然の成り行きにも意味がある。それこそが縁だと思うんです。実際これまで、僕はそういういい縁に恵まれていると感じることが多くて。でもそれは結局、これまでの生き方や考え方、音楽性がもたらしてくれている部分でもある。だから、積み重ねてきたことに対して『ああ、良かったな』という感情も涌いて来ます」
住む人のハートがいいから、 シンガポールは居心地がいい
シンガポールに実際に来て受けた印象を訪ねてみると、すごく居心地がいいという答えが返ってきた。「住めるな、と思いました。それはこの国の人たちのハートがそう感じさせてくれているのだと思います。景色がいいとか、ごみが落ちてなくて清潔だとか、そういうことは僕にとっては重要ではなくて。むしろそういう物理的なことって、見せかけで 取り繕うことも出来ますよね。どんなに清潔でも、どこか居心地が悪いと感じればすぐに帰りたいと思ってしまうもの。でも、シンガポールはそうじゃ ない。つまり、ここに住む人のハートがその感覚を作ってくれているのだろうなと思います」
「行ってみてごらん」と 色んな人に言いたい
今回の来星を機に、ますますシンガポールとの縁が深まる予感がするという東儀さん。またこの国で演奏している気がすると、嬉しそうに述べる。「日本に帰ったら、『シンガポールに行ってみてごらんよ』と色々な人に言おうと思っています。素敵な人達がたくさんいるよと。そういう役目を今回担ったのだと考えていますし、自然に実行したい気持ちになっていますね」 シンガポールで再び雅楽を堪能出来る日も近いかもしれない。
(インタビュアー:J+PLUS編集部)