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2019.12.06

誰も取り残されないカフェ ~スタッフは視覚障害者~

AI技術の発展により多くの労働者の「職」を奪う可能性があると叫ばれている現在、果たしてそうなのでしょうか?
近未来のライフスタイルを考えさせられるイノベーションカフェで発見がありました。

緑に囲まれた気持ちのいい空間でメニューの開発に挑む視覚障害者シェフ達(左、中央)。通常は破棄されてしまうパイナップルの搾り粕でジャムを作っている

オープンを目前に控えるカフェ、JURONG INOVATION DISTRICT(JID)内の「SLICE」とご縁があり、訪問してきました。同スペースはシンガポール政府機関JTCと連続企業家の孫 泰蔵氏がファウンダーのMistletoeの共同プロジェクトです。環境に配慮したアーバンファーム、余剰食品を肥料に変える機械など、サスティナビリティに力を入れています。また、世の問題解決の為に、JIDメンバーが利用できるモノづくりのマイクロファクトリーが併設されていたりと、遊び心、イノベーション、優しさに溢れた空間です。カフェの運営を手掛けるのは視覚障害者の為の食のイベントを運営する「Fortitude Culina」。代表のアーロン氏は視覚障害者雇用の為に、障害者が調理を主体とする飲食店の経営を決断しました。日々スタッフと協力しながら一歩一歩、オープンに向けて歩んでいます。

障害者に優しい調理道具の説明をする「Fortitude Culina」代表のアーロン氏。手に持っているのが狭いビジョンを体験する特別なメガネ

調理者2名は全盲ではなく、視野が大変狭い視覚障害者とのこと。うちお1人は元シェフだったのですが、後天的に視力に障害を負い、仕事を失ってしまいました。再就職を待ち望んでいたときに「Fortitude Culina」と出会ったそうです。「特別なメガネ」をかけて、2人のビジョンがどれくらいなのかを体験してみました。恐怖に感じるぐらい視野が狭められ、この状況で調理ができる事に驚きを感じました。しかし、少しでも調理器具自体のサポートがあると大きな助けとなります。AIによるイノベーションこそ、このような場で役立ちます。メモリを読んでくれる計り、調理ボタンを読んでくれるIH調理器具……もっと沢山のことにAIの力が生きるはずです。

AI技術が仕事を奪うと考えるのは「健常者」であるからで、「障害者」からすると生活向上のためのAI技術はまだまだ足りません。AI技術の発展が「障害者」にとって住みやすい社会をつくる鍵となり、世界中の人々が生活しやすい環境を作るのに繋がるのではないでしょうか。

前回の記事で2030年までに17個の達成目標をかがけている国連の「SDG’s2030」をご紹介しましたが、この目標全体のテーマにはには「誰も取り残されない世界」も含まれています。今回の訪問からそんな世界がAIの発達で実現しそうだと思いました。

次回は視覚障害者の料理教室体験レポをお伝えします!

カフェ:「SLICE」
住所:2 Clean Tech Loop #01-01
運営元WEB:www.fortitudeculina.org



ケルニン青木康子 さん

食のイベント会社Spoonful代表。シンガポールでメディアに7年勤務後、「食」を通して人と人、社会と社会をつなぐ食イベント会社Spoonfulを2014年に企業。ライフワークとして、シンガポール料理の調査、研究を手がける。