2020.06.08
6月7日に行われたリー・シェンロン首相の演説の内容をお届けします。在星する我々日本人は知るべき内容です。今後はCOVID-19との共存していくために何が必要なのか。激変する世界、シンガポールがどのように変わってゆくのかを共に考えていきましょう。
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親愛なるシンガポールの皆さん
こんばんは
COVID-19との戦いは続いています。
私たちは現在順調に回復しています。コミュニティでは、新しい感染が減少しています。移民労働者寮での状況は安定しています。私たちの医療システムは、医療専門家や最前線で活躍している多くの方のおかげで、医療システムはうまく対応できています。最も重要なのは、シンガポール人と移民労働者の両方の間で、死亡率を低く抑えていることです。これは世界的に見ても低い値です。
その結果、CB(サーキット・ブレーカー)を抜け出すことができました。私たちは、経済と社会を、段階的かつ安全に開放しています。規制を緩和するにつれ、他の国で起こったように、症例数は幾分増加すると予想しています。そのため、我々は慎重に事を行なっています。
感染者数が再び急上昇し、2番目のCBを課さなければならないことを避けたいのです。ウイルス検査と感染者の接触者追跡を大幅に強化します。次に、新しい症例を早期に検出し、その感染者とその接触者を隔離し、クラスターが大きくなる前にクラスターを打ち消します。すべてが順調に進み、感染の発生がしっかりと制御されたままである場合、私たちはさらに規制を緩和し、できるだけ早くより多くの活動を再開します。それまでは、引き続き個人の役割を果たしてください。個人の衛生状態を維持し、頻繁に手を洗い、外出時にはマスクを着用し、他の人から安全な距離を保ち、混雑を避けてください。
COVID-19はまだ長期的な問題のままです。ワクチンが広く利用できるようになるまでには、少なくとも1年、おそらくそれ以上かかるでしょう。結核のような他の危険な感染症でこれまで行ってきたように、私たちはCOVID-19との共存を学ぶ必要があります。また、私たちは日常生活の中で新しいルールに慣れる必要があります。ウイルスの蔓延を抑制し、自身を安全に保つことができるように、私たちはすべて日常生活、仕事、遊びの方法を改善していく必要があります。
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経済的影響
しかしながら、COVID-19は公衆衛生上の問題だけではありません。また、深刻な経済的、社会的、政治的問題でもあります。それは実際、人類の長い歴史の中でも最大の危機であります。
COVID-19により、世界経済は事実上、停滞しました。政府は、企業、経済、仕事を支援するために数兆ドルを費やしてきました。それにも関わらず、数千万の職が失われています。各世帯では困難に直面しています。私たちは、かつてない状況におかれています。
シンガポールも大きな打撃を受けました。今年のGDPは4〜7%減少する可能性が高く、これは過去最高の収縮率です。労働者、各世帯、企業を保護するために、政府は4つの連続した予算を通じてサポートしてきました。私たちは、約1,000億ドルを投入しています。これは、シンガポールのGDPの20%であり、これまでの史上最大の財政干渉です。他の国とは異なり、私たちは予備資金を利用することができ、借り入れによって支援策を支払う必要はありません。しかし、そんな私たちでさえも、このレベルの支出を維持することは困難です。さらに重要なことに、これらの措置では、世界経済で起こっている構造的変換から私たちを守ることができません。
シンガポールは国際貿易と投資に大きく依存しています。これらは、COVID-19の前にすでに減速していました。今、この減速はより加速し、さらに進むでしょう。
我々は、以前のような、開かれ、結合された世界経済に戻ることはありません。人々の移動はより制限されます。海外旅行はそれほど頻繁にはできなくなるでしょう。ヘルスチェックと検疫は通常になります。格安便でバンコクや香港に週末旅行をするのは簡単ではなくなります。航空、ホテル、観光などの旅行に依存する産業は、立ち直るためには長い時間を要し、完全に回復することはないかもしれません。
世界各国ではまた、他国への依存度が低くなるよう努力するでしょう。特に、食品や重要な医療用品などの必須の商品やサービスの場合。これは戦略的な意味を持ちます。各国はお互いの幸福にあまり関与しないでしょう。みんなでパイを大きくするために協力するのではなく、パイを奪い合うようにより争いが起こるでしょう。世界では繁栄が減少し、より多くの問題が起きるでしょう。
これらすべての進展はシンガポールに大きな影響を与えます。ラッフルズの時代以前から、私たちは世界とつながって生きてきました。
最初に、私たちは貿易のハブになり、次に国際港となり、そして航空、金融、通信のハブになりました。私たちはオープンでつながりを築く事でグローバル経済から多大な恩恵を受けてきました。製造業、バイオテクノロジー、金融サービス、輸送業など、私たちの経済の大部分は各地域および世界の市場にサービスを提供しているのですから。小売、飲食店、娯楽など、多くの国内部門でさえ観光に大きく依存しています。
今、私たちは全く異なる未来に備える必要があります。大小の企業が大きな打撃を受けるでしょう。一部の業界は恒久的に変わるでしょう。多くは生き残るために自分自身を改革する必要があります。労働者も痛みを伴うでしょう。解雇と失業率が上がるでしょう。いくつかの仕事は消滅し、2度と戻っては来ないかもしれません。労働者は雇用され続けるために新しいスキルを学ぶ必要があります。次の数年は私たち全員にとって淘汰される困難な時期になるでしょう。
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私たちは自信を持つことができます
しかし、これらの巨大な課題にもかかわらず、私は皆さんに伝えたい「恐れてはいけません。心を失わないで下さい。シンガポールは歩みを止めることはありません」と。
私たちは自分たちに明るい未来を掴むことができると信じています。この危機からさらに強力でより良いシンガポールが生まれるでしょう。
まず、私たちは経済的強みと何十年にもわたって築かれた国際的な評判を持っています。私たちは貿易、投資、資本、そして人々の世界的な流れと密接に関係しています。国際貿易と投資は縮小するかもしれませんが、完全になくなるわけではありません。一部のフローは転換または枯渇していくかもしれませんが、他の新しいチャネルが開きます。海外市場は依然として存在し、国際的なパートナーシップの機会があります。シンガポールは、新しいチャネルとフローにつながり、失われたものに取って代わる新しいビジネスと雇用を創出することができます。私たちはただより懸命に、より賢く働かなくてはならないだけです。
私たちの強力で信頼できる国際的な評判は、私たちを大いに助けます。困難に直面した世界では、投資家は、ルールに従って行動する政府の保証を評価します。何が危機に瀕しているのか、そして安定した政治体制を理解している人々と、企業こそがこの危機の中でも事業を継続できることができるのです。
シンガポールがCOVID-19に対応した方法(公共性と透明性をもち、現実を避けたり、問題が起こる最初の兆候で恣意的な行動したりしない事)こそが強みとなるのです。
第二に、私たちは先の不確実性に備えて準備を整えてきました。しばらくの間、私たちは能力を変革し深める事に懸命に取り組んできました。未来の経済の計画を立て、SkillsFuture(人材育成システム)を通じて労働者をアップグレードするために多額の投資を行い、民間部門と公共部門の両方をデジタル化し、イノベーションと研究開発能力を築き上げています。これにより、アジアと世界で突出した存在になりました。COVID-19の後に世界がどのようになるかを正確に予測することはできませんが、これらの未来の経済戦略は私たちをしっかりと支えてくれるでしょう。今、私達はそれらをさらに精力的に追求する必要があります。たとえば、多くの企業が存続できなくなることがわかっています。私たちは、これらのビジネスの変革、ビジネスモデルの変更、または異なる有望な分野への進出をサポートします。
より早急に、国がロックダウンから抜け出すにつれて、私たちは体系的に経済を再起動(リブート)していきます。私たちは輸送と貿易の取引を再構築しています。たとえば、チャンギ空港ではすでに乗り継ぎ便を再開しています。私たちは中国や他の国への安全な旅行のために相互グリーンレーンの取り決めを進めています。サプライチェーン(供給連鎖)は回復してきています。たとえば、私たちは食料源を多様化しています。ポーランドからの卵やサウジアラビアからのエビも購入しています。
次に、私たちは経済の回復に貢献する才能や投資を保持、または引き付けるために懸命に取り組んでいます。一部の国はそのドアを閉ざしている今でも、私たちは門戸を開いたままにしています。その多くの人の意識を先に進めていく事で、私たちの労働者と産業は危機を乗り越え、より速くより強く立ち直る事ができます。
第三に、私たちには目の前の課題に対処するためのプログラムと計画があります。現在、政府の最大の優先事項は仕事です(これはシンガポール人が仕事を続けるため、または新しい仕事を見つける為の助けとなります)。
私たちは特に、40代と50代の方々に特に懸念を抱いています。彼らは、子どもと高齢者の親を同時にサポートすることが多く、財政的責任を負っています。私達はまた、老後の生活ためにもう数年働きたいと思っている、定年に近い年配の労働者や頼りになる貯蓄が少ない低所得労働者や*ギグエコノミーでの仕事と収入の保障が少ない自営業やフリーランサー、さらにこの非常に困難な年に就職する新卒者などを心配しています。
*ギグエコノミー : インターネットを通じて単発の仕事を請け負うアドホックな働き方や経済形態
私たちはこれらすべてのグループを助ける計画を持っています。就職支援スキーム(The Job Support Scheme)、労働特別給付(the Workfare Special Payment)、自営業者所得救済施策(SIRS)、COVID-19サポート助成金(COVID-19 Support Grant)、求人システムと職業訓練(SGUnited Jobs and Skills Package)です。これらの制度により、人々は仕事を続け、何百万人ものシンガポール人とその家族に所得支援を提供する事を可能にしています。
私たちは、全国雇用協議会(National Jobs Council)を立ち上げて、すべての努力を結集して雇用に取り組み、経済のために新しい雇用を創出する方法を検討しています。 Tharman Shanmugaratnam(ターマン・シャンムガラトナム)上級大臣がこれを率いています。
理事会は、関係するすべての政府機関を調整し、NTUCと雇用者グループも参加させて、私たちの努力の効果を最大化していきます。もしあなたが仕事を必要とするなら、これを追っていく事でサポートを得る事ができるでしょう。
COVID-19と経済的課題を超えて、私たちは他の重要な外部および国内の問題にも対処する必要があります。外部的には、世界で変化する戦略的展望を対処する必要があります。COVID-19は米国と中国の間の関係を悪化させました。日々この緊張が高まっています。各国がこの両国の力関係の中で立場を維持することは困難になるでしょう。シンガポールのような小さな国にとっては、もっと危険な世界情勢になるでしょう。私たちは安全を確保し、大小を問わず他の国と取引する際に利益を保護し、前進させなければなりません。また、志を同じくする国々と協力し、自由貿易と多国間主義をサポートし、世界における私たちの発言力と影響力を強化する必要があります。
国内的には、社会をコンパクトにしていかなければなりません。私たちは、誰もが危機を乗り越えられるように緊急対策を講じています。それ以上に、私たちは社会的セーフティネットを改善する方法を慎重に考えなければなりません。持続可能な社会的支援は人々に、この不確実性に対応し自分たちの生活を変化させる自信を与えます。同時に、誰もが自立し、自分の努力で前進していかなくてはなりません。私たちは優先順位、財源、予算について難しい決断を下していますが、「シンガポール人が皆均等な機会を与えられるように」という価値観は変わりません。人生の出発点がどうであれ、誰もが優れた教育、医療、住居を利用でき、あなたが倒れてしまったら、より強く起き上がるように助けます。あなたは大事にされている事に気づくでしょう。シンガポールでは、誰も独りで歩む事はありません。
今後数週間で、それぞれの大臣が、私たちの計画を共有していきます。私たちは、今後何年にも渡る、全ての議題を用意しています。
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人こそが私たちの強み
私たちの計画が成功するため、希望と夢を実現させるために、最後の要素が1つ必要です。それは、人々の団結と回復力です。時に(今、私たちがそうであるように)国と人々は厳しくテストされます。ある人は、圧力に屈し、危機から逃れ衰退し、ある人は、恐怖の可能性に直面した時、自分自身に力の蓄えを発見し、変容し、新たな危機から脱出するにつれて、より決意を深めます。そして、それは私たちのシンガポールの物語でした。私たちはこれまでも危機の中で、危険からチャンスを掴むことに失敗したことはありません。
私たちの国は危機の中で誕生しました。私たちが独立を認められたとき、私たちは一人で生き残ることができないことに気づき、私たちが敗北し、這い戻るだろうと予想されていました。しかしそうではない事を証明したのです。
独立の2年後、イギリス軍は突然、シンガポールから部隊を撤退させることを発表しました。そして多くの人が、それが私たちの最期になると考えていました。そして再び、私たちはそれが間違っていることを証明しました。*パイオニア世代は彼らの運命を掴むために戦いました。そして、*ムルデカ世代はシンガポールを成功させるために心と魂を注ぎました。彼らは共に多くの嵐を乗り越え、常に前を向いており、難しい選択や課題に屈することはありませんでした。そして私たちは今に至るのです。
*パイオニア世代 : 現在70歳以上。1949年以前に生まれ、1986年前にシンガポール国籍を取得した人
*ムルデカ世代 : 現在60歳以上。独立前の開拓の世代。1950年~59年に生まれ、1996年前にシンガポール国籍を取得した人
今、歴史の新たな分岐点にたち、この危機に直面する私たちの番なのです。私たちが今行う選択は、私たちが人間であること、そして私たちが将来の世代に引き継ぐ価値観と理想を定義します。私たちは、逆境に直面して、怒り、恐れ、悔しさに屈するのでしょうか?それとも、自分自身に忠実であり、しっかりと立ち、厳しい選択をし、信頼し続け、互いを信用して行くのでしょうか?
多くのシンガポール人はこの危機の中でも立ち上がっています。彼らはこれまでの自分達以上になっています。医療従事者、公務員、一般の指導者達、ボランティア、その他多くが舞台裏で黙々と働いています。一部は寮の移民労働者の世話をしています。その他には、マスクの縫製、検疫下の家庭のための食料品の調達、または学生が自宅学習を行うためのコンピューターの改修をしています。海外では、シンガポール人は数百キロを運行して仲間の市民を迎え、シンガポール航空で彼らを家に帰しました。これらの結束と人々の優しさの行為は、私たちの中で最高の模範です。彼らは、シンガポール人であることをより強く意識し、この危機から私たちがいかに強くなることができるかを示しています。
だからこそ私は、私たちが例外なく誰もが夢を追いかけることができる公正で正しい社会であり続けることができると信じているのです。 私の内閣チームは、全ての公共サービスの支援によって、シンガポールがどうなれるかというこの永続的なビジョンに向けて、皆さんを導くために最善を尽くします。 私たちはあなた方一人ひとりが私たちと一緒に取り組む事を必要としています。 共に、この危機を乗り越えて、シンガポールの精神を世界に示しましょう。
ありがとうございました。
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