2017.11.21
日本人とローカル、 両方に意味のある クラブであるために
海外の日本人プロスポーツチームとして、世界で唯一の存在であるアルビレックス新潟シンガポール。サッカー好きの日本人だけでなくローカルのサポーターからも愛されている理由は、組織の一人ひとりが“地域” を大切にしているから。サッカーを通してアジア、そして世界に貢献したいと力強く語るアルビレックス新潟シンガポールのトップ・是永大輔さんに話を聞いた。
是永大輔。アルビレックス新潟シンガポールのマネージングディレクター兼CEO。サッカーサイトの編集長として日本最大の会員数を集め、ジャーナリストとしても活躍。バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッドFC、リバプールFC との新規事業を立ち上げた後、2008年に現職に就任。当時赤字だった組織を1 年で黒字化し、現在も売上規模を拡大させ続けている。スペインやミャンマー、香港にもビジネス拠点を作り、またクラブハウスにカジノを併設するなど、多角的に事業を展開している。 アルビレックス新潟シンガポール www.albirex.com.sg
日本人、ローカル両方にとって存在価値があるクラブに
日本人サッカー選手ってすごい−−シンガポールにいると、他のアジアの国にいる時以上にそれを実感する。アルビレックス新潟シンガポールは、全員が日本人選手で構成されたシンガポールのプロサッカーリーグで活躍するチームだ。その組織全体を率いる是永大輔さんは、2008年にマネージングディレクターに就任した。当初赤字だったクラブを1年で黒字化させ、以来堅調に成長させている。今でこそ人気も認知度も十分あるアルビレックス新潟シンガポールだが、その背景に地道な活動の歴史があることを知らない人も少なくない。
「日本人にとってだけでなく、ローカルの方々にとっても、いかに意味のあるクラブになるかがとても大切だと考えています」
シンガポールの社会で価値ある存在でいる為に、地域とチームとのコミュニケーションを常に重視していると、是永さんは述べる。
「外から来た日本人だけのチームというのは、この国の人にとってみれば特に理由がなければ応援しないと思うんです。Jリーグに全員外国人のチームがあったとして、日本人がまっ先に応援するか、という状況と同じ。だからこそ地域とのコミュニケーションが大事だと考えていて。この土地で一緒に汗をかいて地域を盛り上げている、地元の人も一緒にチームを育てているという感覚を共有することが、不可欠だと思っています」
動員数1人当たり1ドルを地元へ寄付
その為に行っている具体的な例として、ホームタウンであるユフアへの寄付活動がある。スタジアムの観客動員1人当たり1ドルを地元に寄付すると決め、年間およそ2万ドルを毎年送り続けているのだ。その合計はおよそ 10 万ドル。そして集まった額を単純に寄付しているわけではない。
「年に1回お渡しします、ではなく〝地域と一緒にこの資金を運用しましょう〞という形を取りました。『Yuhua Albirex Football Academy』というサッカーアカデミーを作り、子どもたちのサッカー技術の向上とサッカーを通じた人間形成 を目的とした活動を行っています」
チームから派遣されたコーチが、子どもたちに週 1度サッカーを教えるプログラムを2013年からスタート。その際に必要な経費を寄付金から賄っているのだ。年間のべ600人が参加しており今年で5年目となるため、通算3000人に届く勢いだ。子どもたちのために〝 地域〞と〝チー ム〞が力を合わせて取り組む仕組みが、見事に出来ている。
交流をきっかけに、サッカーに興味を持ってくれたら
それだけではない。小学校を訪れて授業の一環としてサッカーの指導を行ったり、祭りやボランティアなどの行事への参加、地域清掃活動、 病院や介護施設、児童保護施設への訪問といった、地域貢献事業も積極的に取り組んでいる。
「地元と繋がることを意識していないと、いい循環は生まれない。〝 外国人チーム〞である僕らの存在価値は薄れてしまいま す。スタッフにも選手にも、 そういうマインドは徹底して教えていますね」
もちろん言うまでもなく、日本人との繋がりもしっかりと意識している。スタジアムに足を運ぶサポーターに、ローカルに負けず日本人が多いことからもわかるように、幅広い層の日本人 からも支持されている。日本関連のイベントへの参加、 サッカーやチアスクールの運営など、あらゆる形で繋がりをしっかり築いてきており、文化や国籍の偏りなくピュアに活動を行っているのだ。
「そういう交流をきっかけに、これまでサッカーに関心がなかった人が『試合を観に行ってみようか』となったりする。アルビレックス新潟シンガポールと接する機会を様々な形で作ることが、クラブ運営の柱となっています」
周辺国で活躍する選手の輩出も
実はシンガポールの周辺国へもアルビレックス新潟シンガポールは影響を与えている。シンガポールで経験を積んだ選手がインドネシアやタイのプロリーグで活躍をするなど、日本人選手の地位向上に貢献しているのだ。実力を示すといった観点だけでなく、練習に取り組む際の真面目で一生懸命な姿勢といった国民性への評価も高いといい、文化的な側面でも貢献している。 一方で是永さんは、日本に対する思いも強いと語る。
「ひとりでも多く、海外経験を持つ日本人選手が 増えてほしいと思っています。日本は少子高齢化が進んでいるので、国力を維持、また高めるためにもあらゆる側面でこれから海外と手を組む機会 が増えるでしょう。それなのに、20 代のパスポート所有率は6%未満。つまり海外に目を向けていない人が圧倒的に多いと聞き、それではまずいだろうと感じました。だからこそ、日本からシンガ ポールへどんどん人を呼んで〝海外でも意外とやれる〞と自信をつけさせたい。その選手が帰国して周囲に話をすれば、海外へ行こうと思う人がさらに増えますよね。そういう影響も生み出して行きたいと、常に考えています」
新たなフェーズへ向けて始動
是永さんがトップに就任して約 10 年。実は現在、組織として過渡期にあると感じている事を明かす。「〝世界で唯一の、日本人だけで編成されたトップリーグに所属するチーム〞というのがこれまでのパワーワードでした。クラブが出来てから 14 年経つわけですが、新たな可能性も広げていかなくてはと模索しています」
先日、香港にも支社を設立した。すでにあるミャンマーやスペインも含め、互いの繋がりを活かして〝面 〞を作りたいと、是永さんは語る。
「スポーツを通じて作られる面には、他のジャンルとは異なる不思議な力があるんです。社会に受け入れられやすい説得力をはらんでいる。枠組みだけ見れば僕ら組織はただの会社ですが、〝日本を代表して来ているスポーツクラブだ〞と堂々と言うことが出来る。。サッカーを核として、アルビレックス新潟シンガポールの名の下に、シンガポールから世界に向けてどんどん面を広げていき たいですね」
日本人のパワーをシンガポールから発信し続けるアルビレックス新潟シンガポール。これからもますます目が離せない。(インタビュー・ JPLUS編集部)