2016.06.17
思春期の子どものやる気を引き出し、より良い親子関係をサポートする専門家・大塚隆司が、育児と教育に悩むパパのため「子どもの可能性を広げるコミュニケーション術」を教えます。
必要なのは根拠のない自信
小学校5年生の篤哉くんは勉強がまったくできません。明るくて屈託のない性格で、先生から好かれていましたが、通知表を見れば算国理社はすべて1。それ以外は2か3です。
私が篤哉くんに出会ったとき、彼は勉強だけでなくスポーツにも自信がなく、何に対しても積極性がありませんでした。 私が彼に会って最初に考えたことは、自信を持たせてあげたい、ということでした。自信とは大きく分けると根拠のある自信と根拠のない自信という2つに分類することができます。篤哉くんのような結果を出せていない子が結果を出せる子になるためには、今は「根拠のない自信」を持たせてあげることが大切です。
それはつまり「俺(私)でもできる」と勘違いさせてあげることです。できないけどできると思ったり、解けないけど解けると思ったりする勘違いが必要なのです。実際、上手に勘違いをした子供はどんどんやる気を出しはじめ、成績をのばしていきます。
なぜなら、やる気をもって積極的に勉強すれば、今まで覚えられなかったものを覚えられるようになり、今まで解けなかった問題が解けるようになるからです。
自分から勉強する子どものお母さんは、こうした根拠のない自信を子どもに持たせることが非常に得意です。では具体的にどうしたらいいのでしょうか。先ほどの篤哉くんの例でお話していきましょう。最初、彼が一番好きな教科である理科の勉強を始めました。プリントに書いてある語句6個を覚える授業です。
「覚えたらテストするよ。5分間ね。スタート!」。しかし2分ほどたつと、覚えるのに飽きたのか「もう覚えた」と言ってプリントを返してきます。「え?もう覚えたの?ホントに?まだ2分しかたっていないよ」と少しおおげさに驚いてみせます。結果は6問中2問しか合っていません。
ですが私は「おっ!2つ当たってるじゃん。よくあんなに短い時間で2つも覚えられたね!」と驚いてみせ、「でもさすがに2分じゃ全部覚えるのは難しいよね。じゃあ今度は5分で覚えてみようか」と続けてプリントを渡し、次の6個を覚えさせます。するとほめられたため、さっきよりも集中して覚えはじめます。3分ほどたったらまた「覚えた!」と言ってプリントを返してくる。次は本当に全問正解です!それに対して「もしかして篤哉くん、覚えるのが得意なの?」とか「今までいろんな子を見てきたけど、こんなに早く覚えられた子っていないもん」とか言うと篤哉くんはすっかりノリノリです。こういったことを繰り返していくと
「俺は暗記が得意!」と勘違いしてくれるようになるのです。私は実力の有無と、自信を持つか否かは別だと思っています。たしかに本来実力があるから自信をもつ、というのが自然な順序です。しかし現実には自信を持ってやったら実力がついた、ということもよくあるのです。
パパの育児相談コーナーの質問
Question
小学生6 年生の女の子の父親です。以前はそれほどでもなかったのですが娘が母親としか喋りません。学校の友だちのことや勉強のこと、先生のこと、僕にはよくわからないせいもあるのですが、質問しても答えが素っ気なく、また母親とのみの会話に戻ってしまいます。別に故意に無視しているとも思わないのですが、ときどき寂しくなります。どうしたらよいのでしょうか?
Answer
女の子は成長が早いので、小学6年生にもなればもう思春期に入ってきます。思春期の娘さんが父親を嫌ったり避けたりすることはよくあることですから、あまり気にされなくても良いのではないでしょうか。親から距離を取ることが自立へのスタートです。娘さんは順調なスタートを切っているように感じます。とはいえ、それまでいろいろと話をしていたのに、会話が無くなってしまうのは寂しいですよね。この時期は子どもの内面が大きく変わりますので、それに合わせて関わり方を変えた方がうまくいくようです。それまでの“子ども”に対しての関わりから、ひとりの“大人”に対しての関わりへ。もしかすると、娘さんは自分がまだ子どもとして見られていることに違和感を覚えているのかも知れません。
大塚隆司
名古屋市出身。大阪教育大学教育学部卒。学習塾就職をきっかけに、アメリカ発の心理学的アプローチ「コーチング」「ブリーフセラピー」などを学ぶ。現在は塾講師時代の経験をいかし、思春期の子を持つ父親と母親をサポートをする講演会やワークショップを行う。マスコミ出演多数。