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2020.11.20

2020シーズン開幕後、コロナ禍で試合が延期になり、チームでの練習すらできない時期が続いたアルビレックス新潟シンガポール(アルビ)。行動が大きく制限された異例づくしの中、サッカーチームや事業全体をどのように舵取りをしたのか。今年1月に新しくCEOに就任した難波さんに一年を振り返ってもらいました。


難波 修二郎(なんば しゅうじろう)
1975年生まれ、香川県高松市出身。高校生時代からスポーツに関わる仕事に興味を持ち、「スポーツビジネス」という業界に出会う。大阪体育大学大学院(スポーツ経営学)、FC東京(Jリーグ)、Canisius College Graduate School(スポーツ管理・経営学)などを経て、2014年にシンガポールに来星。 2020年にアルビレックス新潟シンガポールのCEOに就任。
Twitter:@Shujiron


コロナ禍により活動が制限される中、何を優先にどう対応しましたか?
当クラブはサッカーチームの選手サイドと、会社を運営する経営サイドの2つに分けられるのですが、選手サイドでいうと、心のケアを最優先にしました。選手達はシンガポールで結果を出し、リーグや海外のクラブに行くチャンスを掴む、プロとして羽ばたくための1年限定のチャンスとして来ています。ですから、自分達のパフォーマンスを見せる機会が無い状況は、ものすごく焦りますし、次のチームが決まらないのではないかという心理状況は選手にとって、とても辛かったと思います。その頃はオンラインでしかできなかったのですが、顔を合わせてしっかりとコミュニケーションをとるようにしました。外出規制があるので思うように練習ができず、体力は落ちるしメンタルも辛くなる。実際に何人か塞ぎ込んでしまった選手もいるんですけど、幸いにも大ごとになる前に外出規制が緩和され、外に出られるようになりました。もう1カ月長引いていたら大変でしたね。

経営の方はどうでしたか?
我々の収入源はサッカーやチアダンススクールのように、外に出て人が集まるようなものが大半を占めています。ですから、サーキットブレーカーのインパクトは非常に大きかったです。こちらも同じになるのですが、まずはスタッフのメンタルケアをしっかりと行いました。こまめに面談をして、制限はある中でも前向きに考えられるようにしました。そして、収入源であるサッカースクール、チアダンススクールからどうやってお客様が離れないようにするか、もしくは一度離れてしまったお客様をどうやって戻していくかを試行錯誤しながら考えました。最初は録画した動画を配信したりしていろいろな手を尽くしましたが、なかなか上手くいかず、最終的にはオンラインレッスンに落ち着き、収入は大きく落ちましたがなんとか持ち堪えました。

クラスから抜ける人もいる中、どのような対策をとったのでしょうか?
チアダンスは競技の特性上それほど 左右に動かなくてもレッスンができ ますし、スタッフが試行錯誤して楽し くレッスンを組み立ててくれたおかげ である程度成り立っていました。しか し、サッカーはその場でできることが 限られています。リフティングはボールを家で蹴って窓ガラスを割る危険性もあり ますし … 筋トレばかりやっても外でサッカー ができないのなら意味がない、それはサッカー ではないということで休会される方が少な からずいらっしゃいました。ですので、特に サッカーに関してはいろいろな手を使いまし た。まずはアンケートを取り、なぜクラスに 参加してくれないのか、どのトレーニング内 容がつまらなかったか、お客様が何を求めて いてどこを改善できるのかを探りました。親 御さんもステイホームの方が多く運動不足に なるので、親子でできるようなレッスンを考 えたり、トレーナーによる子どもの教育、栄 養、体のケア、マッサージなどの親御さん向 けのレクチャーをしたりしました。シンガポー ル代表監督の吉田達磨さんに協力してもらい、スクール生の保護者向けに小中学校年代の練 習の仕方の講演をしてもらったりもして、ア ルビにいて良かったなと思ってもらえるよう なコンテンツ作りを心がけました。

選手やスタッフとコミュニケーションをとる 上で気をつけたことはありますか?
とにかく後ろ向きにならないようにしました。「明けない夜はない」ではないんですけど、コロナもいつかは終わる、ジタバタしてもしょうがないですからね (笑)。ですから、今できることを地道にやり、とにかく前に進もうという気持ちで接しました。そして、選手やスタッフの話に耳を傾けるようにしました。特に励ますというわけではなく、たわいもない話をして、聞いてあげたり、オンライン飲み会なんかもやりましたよ(笑)。

海外事業の方はいかがでしょうか?
我々のブランチがあるヤンゴン(ミャンマー)はロックダウンになったため外出が禁止となりました。ミャンマーは医療体制が日本のように整ってはいないので、風邪を引いただけでもこのコロナの状況下だと医者にかかれないかも知れません。万が一のことがあってはいけないということで、一部駐在員の方を残して多くの日本人が帰国してしまったようです。当然我々のサッカースクールもオンラインレッスンに切り替えたのですが、日本では外出禁止ではなく外でサッカーができるので、なかなかオンラインのレッスンに参加してもらえませんでした。そのため、ビジネス面では本当にダメージを受けています。それ以外は耳の聞こえないろう学校の子供や養護施設の子供にもサッカーを教えているのですが、こちらはオンラインでも楽しく授業を受けてくれました。また、バルセロナで行っている留学事業に関しては、コロナの影響で外出規制が出たのがちょうどプログラムが終わる5月頃でしたので、影響を受けたのは最後の2週間くらいでしたね。スペインは一旦沈静化したのでまた9月の新メンバーでプログラムをスタートしたのですが、再度悪化したため外出規制が出ました。予想外で本当に残念ですが、少しの辛抱です。

リーグがついに再開しましたが、今のチームの状況はどう見ていますか?
まずはチームとして、しっかりと最後まで走りきり、手を抜かずに戦うことができていると思います。リーグの開幕前にしっかりと体作りをして良いスタートが切れていたのですが、コロナになってしまい体力が一度落ちてしまいました。一度落ちた体力は戻すのがなかなか大変ですが、試合を見ていると、しっかりと90分最後まで走りきれている、我々が見せるべきサッカーをできているなと思います。戦術的なことを言うとキリがないので、まずは一戦一戦最後まで出し切ってチームとして戦い切るのが大事でできているなと言う印象です。

無観客試合になってしまい、何か変化はありますか?
当然お客様に見てもらいたいですし、応援がたくさんあった方がモチベーションにはつながるのは間違い無いです。ただ、選手達がシンガポールにきている目的は、ここで結果を出して次のステップを勝ち取ることですので、そこを考えればモチベーションを下げられるはずがないです。そう言う意味でも90分間しっかりと走りきれているのかなと思います。

リーグ再開に至るまでの経緯は?
6月末くらいに外出禁止が解除され、上限5人まででの練習ができるようになりました。その後9月から全体練習が再開されたのですが、シャワーだけでなくロッカールームも使用が禁止され、選手たちは練習着でグランドにきて終わったらそのまま帰宅しないといけません。ハイタッチもできず、練習後は会話せず即解散せよ、など本当に多くの制限がシンガポールサッカー協会からかけられていました。実際にすべての練習にサッカー協会のスタッフが監視しに来ていました。チェックがあまりにも厳しいので、その時はサッカー協会の人間が敵に思えましたね。ただ、今振り返ってみると、シンガポールのスポーツでこのように再開できているのはシンガポールプレミアリーグだけなんです。これはなぜかというと、協会の方たちが各チームに厳しいルールを課し、何カ月もの間そのルールを遵守できている実績を積み上げてきたからなんです。すべての練習会場にシンガポールサッカー業界の人を派遣し、細かなチェックを欠かさず、それらの実績が認められて再開の許可が出た。もちろん各クラブの我慢と協力あってのことですが、サッカー協会スタッフの努力があっての今があるわけで、今となってはとても感謝しています。

リーグ戦が通常よりも短いスケジュールになってしまいました。
形は変わってしまっても最後までやり切り、優勝、準優勝を決められるようになったことに感謝しなければいけないと思っています。ただし、日程がタイトになり、終盤は必ず毎週2試合入っているので、これは相当タフだと思います。練習の組み方も変える必要があり、疲労回復が一番重要です。トレーナーの腕の見せどころだと思いますし、選手も自分自身のコンディションに一層注意して、怪我なく戦ってほしいです。

スケジュールが変わってしまい。心がけていることは?
体のコンディションづくりですね。疲れがたまると普段しないような怪我をする可能性が高まります。筋肉が弱まっているところに負荷がかかって筋肉の繊維が切れてしまったりとか。それを起こさないようになるべく早く回復させる必要があります。でも練習はしなければいけないので、そこのバランスを大事にしています。

来年に向けて何か動き始めていますか?
経営に関しては、まず、去年のレベルになるべく早く経営状況を戻すのが目標です。早い段階で戻ったり、国が開くのであれば、海外に出て行きたいのもあります。ですが、一度体力回復をしないといけないなと考えています(笑)。今年は疲弊した感じですね…
チームの方は、基本的には一年契約なので数名を残して来年また新しい選手が来るのですが、今の状況ですと、シンガポールにきたら2週間の隔離があり、コストもかかる。隔離を経ないと練習に参加することができません。通常より早く動く必要があるため、いろいろなスケジュールが前倒しになるかと思います。早めに選手を決めて、契約をして、ビザをとって渡航の準備をしないといけないのですが、日本は日本でコロナの影響によりサッカー界のスケジュールが後ろ倒しになってしまっている状況です。自分たちの試合がまだ続いていて、将来がどうなるかわからない状況で、シンガポールに来ませんかと声をかけなければならず、選手としても判断が難しいと思います。さらにシンガポールの状況をよく知らず、東南アジアひとくくりでコロナの心配をする人もいるかもしれません。そう言ったことを考えると、本当に準備期間が短いですね。

今後のアルビの活動で注目して欲しいことはありますか?
去年はU15のチームを、そして今年はU17のチームを作ったのですが、この先21歳以下のチームも作るプランもあり、プロまでの階段を作ってあげることでより多くのシンガポール人選手を育てていきたいと思っています。今年はコロナの影響ではほぼ活動ができませんでしたが、来年は本格的に活動できると思うので、アルビが育てる選手が今後どんどん羽ばたいていく第一歩だと思います。アルビは日本人だけのサッカーチームではなく、シンガポール人選手の育成に取り組んでいて、そういう一面もあることをより多くの人に知ってもらいたいですね。トップチームにシンガポール人選手もいて、もっともっと中心選手になって活躍してくれると良いなとも思っています。トップチームもそうですが、コーチ陣やスタッフ、監督、オフィス、アルビは日本人とシンガポール人の融合クラブで、お互い助け合いながら前に進んでいっています。今年は無観客試合ですが、来年はスタジアムで試合を観れるはずですのでアルビレックスに迫力あるプレーをぜひ観に来てください!

最後に、社長として心がけたことや今後に向けての考えは?
社長になって一年目で私も新米なのですが、とにかくパニックにならず、私が一番どっしりしていないとスタッフも動揺してしまいますので、なるべくいつも通りの自分でいるように心がけました。そしてスタッフのみんなもつらい状況の中でも本当に頑張ってくれて感謝しています。ただ、我々のビジネスは人が集まって、そこから生まれるエネルギーが商品というものですので、こういう状況には弱いなと痛感したのも事実です。これからも突き詰めるところは変わりませんが、新たなビジネスを生み出す、というよりは柔軟に思考とやり方を変えながら状況に適応させていく必要があると思っています。どんな状況になっても道筋を見つけ、一致団結しながらしぶとく生き抜いていく、そんなグループになっていきたいです。