2019.10.18
2019年はシンガポールの農業と食の転換期?
今月はシンガポールの「食の自給率」についてご案内します。
Q. シンガポールの食の国内自給率は何パーセントでしょうか?
① 10%未満 ② 10~20%未満 ③ 20~25%
なんとなく、低いと予想できますが、答えは①です。
今年2月に政府から食の国内生産自給率を2030年までに30%に引き上げる、「30 by 30」戦略が発表されました。第2次世界大戦後の1970年代まで実は農業国だったシンガポール。1960年代~80年代には国立の農業学校があったほどです! ですが、1980年代の政府の方針転換から農業はマイナー産業になりました。
なぜ、今この方針が発表されたの?
上記は「30 by 30」 の声明からの抽出訳ですが、今後世界的な食糧難が予測される中、国をあげて「安定した食の供給」戦略を実行していかないことには、国の死活問題にかかわってくる可能性があるというメッセージが多分に含まれています。
これまでシンガポールに「食」のみを専門に扱う政府機関はなかったのですが、今年4月からこれまでの旧AVA(Agri-Food and Veterinary Authority of Singapore)、NEA(National Environment Agency )、HSA( Health Sciences Authority)から食関連の業務を抜粋し、合体させたSFA(The Singapore Food Agency)が登場しました。政府がいかに「食」という分野に力をいれていくかが伺えます。SFAの方針としては、より業界関係企業とも近い関係を築き、「食の自給率の向上」のみではなく、「食の安全基準」「サステイナビリティ」の強化に力を入れていくことを明言しています。
国連経済社会局によると、2050年までに地球の人口は25億人増えて97億2000人になるといいます。一方で、世界では7人に1人が飢餓や栄養不良に苦しんでいるのが現状です。この状況を考えると、シンガポールがなぜ、国内自給率について声をあげてきたのかが、納得できます。
今年シンガポールで開催された、「equip&dine asia」展示会でのSustainability in the Food Industryのトークの様子。健康に配慮した病院食を取り入れているKhoo Teck Puat Hospitalや、Impossibleミート等の食品を生産しているImpossible Foodの担当者も参加し、現在のシンガポールにおける「サステイナビリティ」が熱心に討論されていました。ただ自給率を上げるだけではなく、2019年における「食」の向上にはサステイナビリティの考えを外すことは出来ません。
シンガポールのハイテク農家の一社 Kok Farm では農地ツアーも開催し、シンガポールの農業について触れることができます。市民によりよく食のことを知ってもらうことが、 食の自給率向上や、サステイナビリティに繋がります。
ケルニン青木康子 さん
食のイベント会社Spoonful代表。シンガポールでメディアに7年勤務後、「食」を通して人と人、社会と社会をつなぐ食イベント会社Spoonfulを2014年に企業。ライフワークとして、シンガポール料理の調査、研究を手がける。