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2017.01.31

河瀬監督が感じた「シンガポール」とは

昨年に行われた「シンガポール国際映画祭」で審査委員長を務めた河瀨直美監督。1997 年劇映画デビュー作となる『萌の朱雀』でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を受賞し、2007 年には『殯(もがり)の森』がグランプリに。2009 年には同映画祭に貢献した監督に贈られる黄金の馬車賞を女性およびアジア人として初めて受賞している。世界の映画界における重要人物である彼女に、シンガポールの社会について語ってもらった。

河瀬 直美 Naomi Kawase

1997 年劇場映画デビュー作『萌の朱雀』で、「カンヌ国際映画祭」カメラドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞。2007 年『殯の森(もがりのもり)』で、審査員特別大賞グランプリを受賞。2009 年には、「カンヌ国際映画祭」に貢献した監督に贈られる黄金の馬車賞を受賞し、2013 年にはコンペティション部門の審査委員を務める。2015 年フランス芸術文化勲章「シャヴェリエ」を叙勲。2016 年「カンヌ国際映画祭」シネフォンダシオン部門、短編部門の審査委員長に就任。「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」にて河瀨直美回顧展を開催。2018 年にはフランスの「ポンピドゥーセンター」で『河瀨直美回顧展』の開催が決定している。2016 年に開かれた「第27 回シンガポール国際映画祭」で審査委員長を務めた。


『萌の朱雀』主演女優賞受賞時以来、20 年ぶりの来星

2016年 10 、 11 月に開催された第 27 回目となる「Singapore International Film Festival (シンガポール国際映画祭)」。シンガポールで開催されている映画祭の中では歴史が最も古く、規模も最大を誇る。世界でも有数のアジア映画をフューチャーした国際映画祭で、インディペンデントからメジャーまで、アジアの作品をメインに上映する。今回は約1万3千人の観客動員を集め、大盛況の中閉幕 した。コンペティション部門の審査委員長を務めたのは日本、いやアジアを代表する映画監督である河瀨直美監督だ。1997年、自身が手がけた『萌の朱雀』で主演女優賞を尾野真千子さんが獲得しており、実はシンガポールとの縁は深い。

2014 年に旭日小綬章を受章した名女優・樹木希林を主演に迎えた『あん』(2015 年日本公開)

シンガポール国際映画祭で主演女優賞を受賞した『萌の朱雀』(1997 年日本公開)

「 20 年前と比べて、街の雰囲気は大分変わりましたよね。マリーナベイの辺りはマーライオンしかなかった印象なのですが、様変わりしています。この国の成長スピードや、人々の団結力の強さを感じます」

ゆっくり腰を落ち着けての滞在は、なんと 20 年振りだという。2009 年、「National Museum of Singapore(シンガポール国立博物館)」で行われた河瀨直美監督の回顧展に伴い来星した際は、2泊のみという急ぎ足だったそう。今回改めてシンガポールの空気を体感しながら、この国が持つ唯一無二性を興味深そうに話す。

「様々な国籍の人が住んでいるけれど、シンガポールの人は基本的にシンプルなんだろうなと思います。そういう国で開かれる『シンガポール国際映画祭』は、文化的な部分でもアジアのハブになっていると感じますね。インディペンデントな、芸術性の高い映画を上映していることにも表れていますが、先を見る目に長けているとも思いますし、同時にアジアとしての誇りを持っている印象を受けます。世界に通用する為に英語を公用語とするというコンセプトはあるけれど、アジアとしての根強い文化意識もあると思いますね」

審査委員長として参加し、アジアの若手作品10 本を審査した。また、河瀨監督の作品5 作品も上映された

審査委員長として参加し、アジアの若手作品10 本を審査した。また、河瀨監督の作品5 作品も上映された

女性が意見を言いやすいシンガポール国際映画祭

「シンガポール国際映画祭」のディレクターは、2児の母である女性だ。審査員は女性2名、男性2名でバランスが均等になっている。「カンヌ国際映画祭」をはじめ欧米の映画祭とのゆかりが深い河瀨監督だが、他国の映画祭における女性の位置と、違いがあるか尋ねてみた。

「私が感じる限りでは、『シンガポール国際映画祭』は欧米よりも女性が意見を言いやすい現場ですね。例えば『カンヌ国際映画祭』ではマーケット担当者は女性が多いのですが、一方で映画制作をしているのは男性の割合が圧倒的。だから、私のような女性映画監督は珍しいと言われます。映画祭の壇上に上がれる女性は限られている現状なので、周囲のマーケティングの方達から『あなたが上ってくれて嬉しいわ』と言ってもらえるんです」

文化面でもアジア各国が手を繋ぐ機会が増えて欲しい

自身が主催している「なら国際映画祭」で、シンガポール作品を上映するアイデアもあるという

アジア人としてのアイデンティティを意識することはあるのだろうか。

「それは、2009 年頃から感じるようになりました。カンヌで黄金の名馬車賞を頂いたのがその年なんですが、メディアに〝アジア人女性初〞という冠付きで紹介されたんです。『アジア人なんだ』と、その時に初めて思いました。日本人なんだけど、欧米の人からすると〝アジア人〞というカテゴリー。しかも女性というカテゴライズもされることが多い。それから7年ほど経ちますが、常にアジアの女性としての役割を意識しています」

それ故に、アジアという言葉が持つ意味についても考えを巡らせることが多いと明かす。 「アジアって何なんだろうとよく思うんです。今回インドネシア、タイ、ネパール、香港、シンガポールの映画がラインナップしました。それぞれ国毎に異なる文化意識があるので、一緒くたにされているのを不思議に感じる部分もあります。各国が手を繋いで意見を言う機会が、文化的な側面でも今後より増えていった方がいいと考えています」

(インタビュアー・J+PLUS編集部)