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2021.02.26

【現場読解】

シンガポールや日本を拠点にグローバルな舞台で活躍するリーダーたちが、人生やビジネスについての信念や情熱を語る!世界の未来を担う人たちにヒントをあたえてくれる「オススメの一冊」も紹介。

《第17回》

モットーの通り、常に笑顔をたやさずインタビューに応じてくれた仲村選手。一方で、ストイックな日常生活を管理し、シビアな現実と向き合い続ける強靭な意志と精神力が伺えた。世界を舞台に戦い、そして自分との戦いにも挑み続ける彼を突き動かすものとは。

仲村京雅さん
サッカー選手
在星3年目 
1996年千葉県出身
尊敬するリーダー/漫画「ONE PIECE」のルフィ
モットー/笑顔のある毎日を

所属チーム:Tampines Rovers FC
YouTube: Singapore リーガーの日常 / W スマイル TV

Twitter: @kyoga07

Instagram: @kyoga_official


サッカー一筋でプロの道へまっしぐら

 まだ歩くか歩かない頃、家族からもらった初めての誕生日プレゼントがサッカーボールでした。父母ともにサッカー好きで、気づいたらいつもボールを蹴っている子どもになっていました。

 幼稚園の時に町クラブに入って以来、ずっとプロを目指していました。中学で全国区のトレセンに3年連続参加し、中3でジェフユナイテッド市原・千葉のユースチームに入団。そこでの活躍が評価され、プロの練習試合に出場するようになりました。高2の時、U-17日本代表の監督をしていたジェフのコーチの推薦で、U-17ワールドカップの日本代表に選ばれたんです。

幼稚園生の大会で優勝

 結束が固まっていたメンバーの中に、わずか試合1カ月前に新人として飛び入りしたのは、なかなかキツイ体験でした。最初は誰も仲間がいなくて、すでに出来上がっていた輪に入っていくのは大変でしたね。でも、試合のために何でも言い合える関係を築けるよう、自分から距離を縮める努力をしました。試合で結果を出し仲間として受け入れてもらえたので、何をおいても結果重視なのだと実感しました。

今は亡き大切な2人に支えられる

 しかし、いざプロ入りの夢が叶った途端、気持ちが下降気味になってしまったんです。踏ん張りが利かず、気持ちでは頑張ろうと思っても、体が乗っていかないという時期がありました。育ててくれたジェフで活躍したいと思いながら、実際は一試合も出られませんでした。力を付けるために、YSCC横浜 とFC琉球にレンタル移籍しましたが、そこでも結果を出せずプロの壁の厚さを感じました。ミスばかり目立ち、毎日監督に怒られてばかり。朝練習に行くのが怖くなり、ストレスから逆流性胃腸炎にもなりました。サッカーをやっていて一番つらい時期でしたね。

 そんな当時の僕を支えてくれたのが、小学生の時に亡くなった2人の大切な人、すごく仲の良かった親友と親戚の子の存在でした。2人ともサッカーが大好きで、「君は絶対にプロになれる」とずっと信じてくれていました。彼らの言葉や存在が大きな励みになって、「絶対に僕がやらないと」と自分を奮い立たせることができました。

 また、先輩から言われた、「お前のミスなんて、10秒後にはもう誰も覚えていない。だから、今できることを100%でやれ」という言葉も、立ち直る大きなきっかけになりました。何を言われても今の全力を出し切ろう、と思ったら、気持ちが上向きになってきたんです。

海外移籍という人生の大転機

 プロになって4年目の22歳の時、契約満了でジェフをクビになりました。契約満了となった選手に移籍の機会を創出するトライアウトに参加した時、アルビレックス新潟シンガポールの社長が声をかけてくださいました。「10番を空けて待ってる。チャンスだから来いよ」と言っていただき、海外移籍に興味があったのと、自分をこんなに欲してくれるチームがあるならそこで頑張ってみようと思い立ち、移籍を決心しました。

 まさに人生の大転機だったと思います。シンガポールといえばリゾート地のイメージしかなく、アジアサッカーにも疎かったんです。暑い中でのトレーニングは想像以上にキツく、来た当初は6キロ痩せました。汚れない、めくれない人工芝での練習も初めてで、怪我もしましたね。自炊もしなければならず、とにかく、体調と体重管理が大変でした。

初のキャプテン体験、そしてローカルチームからのスカウト

 アルビでは、人生で初めてキャプテンも務めました。メンバー全員のことを気にしなければならない立場になり、それまで自分がいかに狭い箱の中にいたか痛感しました。聞いてわかる人、見てわかる人、実際にやりながら理解する人など、人によって効果的な伝え方は様々で、個々に合わせ工夫して話すことが重要だとわかりました。

 アルビはU-23のチームなので、23歳で移籍することが前提でした。ここで結果を残さなければ次がないと思い、死に物狂いでやりました。その結果、年間ヤングプレーヤー賞にノミネートされたり、ベスト11に選ばれた成果が評価され、シンガポールの3チームからオファーを受けたんです。その中でも、特に熱烈にアプローチしてくれたタンピネス・ローバーズに移籍を決めました。「うちのチームを踏み台にしてどんどん成長してほしい、活躍して行ってほしい」と言われ、そんな風に背中を押されたことは初めてでした。僕のサッカーに対する姿勢も高く評価してくれて、練習に誰よりも早く来て誰よりも遅く帰る、という日本人選手のよさを、シンガポール選手にも見習ってほしいと考えたんだそうです。このチームに絶対結果を残そうと決心しました。契約金は一番低かったんですけどね。

2019シーズンBest11に輝く

日本チーム勢とチャンピオンズリーグで対戦予定

 シンガポールの各チームの外国人枠は、4人までと決められてるんです。チームメイトだけどライバルで、結果を残さないと来年はないかもしれない、という緊張感が常にあります。

 昨年のサーキットブレイカーの期間は、6カ月ほど在宅でしたが、逆にチャンスと捉えていました。同じ量を練習してもなかなか追いつけないトップ選手に、この期間の行動次第では差を縮められると考え、強度の高い走り込みや筋トレなどをきっちりやり、時間を無駄にしないようにしました。そのおかげで、昨年もベスト11に選ばれるという結果につながったのだと思います。

 今年4月には、アジアサッカー連盟が開催するチャンピオンズリーグがあり、シンガポールからは国内トップの我がチームが出場することに決まっています。ガンバ大阪、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの日本のベスト3ほか、アジア各国のトップチームが参加する国際試合でプレイできることは、自分のキャリアにとってもすごくメリットが大きい。それだけ見てくれる人が多いわけですから。自分の力がどこまで通用するか、とても楽しみです。
※ 取材後に抽選で、初戦相手がガンバ大阪に決定した。

セカンドではなくデュアルキャリアで

 スポーツ選手のセカンドキャリアについて話題になることが多いですが、あまり好きな言葉じゃないんです。サッカー選手が終わったら第二の人生が始まる、と捉えるとつまづくことが多い。引退後にコーチ、監督になるという道もありますが、今やサッカー選手の数は飽和状態で、ブランド力が低下しているのは事実です。僕は、セカンドじゃなくデュアルキャリアでやればいいと思っています。並行していろいろやるからこそ、主軸のサッカーに集中できるし、よりよさが分かると思っています。僕は近い将来、町クラブのサポートシステムをもっと強化したいと考えています。町クラブにもプロの道で突き抜けられる選手がたくさんいるのに、能力を最大限に引き出してあげられる環境が十分に整っていないのがとても残念です。ボールを蹴るだけではなく、いかに効果的に身体操作するか、どうしたら怪我のリスクを下げられるか、体作りと食生活の関わりなど、オフザピッチのサポートを担っていきたいと思っています。町クラブから、どんどんいい選手を出していけるようなシステムを作っていきたいですね。

シンガポールの経験を通じて、新しい自分を作る

 シンガポールに来て、業界を問わず、ポジティブな考え方の人たちにお会いすることが多く、そのおかげで新しい自分を作れたと感じています。何事も気の持ちようで、辛いことや怖いことも、楽しいこと、嬉しいことに変えられるということに気づきました。サッカー選手は24時間が仕事。食事制限や筋トレなどつらいことばかりで、嬉しいことなんてほんの一瞬のこと、と以前は思っていました。でも、今はサッカーは楽しいことしかない、と心底思えます。

天国の2人へ僕のゴールが届く様にWポーズ

 目標を見失いそうになった時や壁にぶち当たった時、僕を支えてくれているのは前述の 2人の存在です。亡くなった2人が見た時に悲しまないよう、2人の分まで笑って過ごそうと言い聞かせています。プレイ中のガッツポーズの代わりに、天国の2人に届くよう指でWポーズを作っています。昨年結婚してからは、妻のイニシャルのMも作って感謝の気持ちを伝えています。僕のメンタルを支えてくれている、強力なサポーターたちです。

オススメの一冊

(アービンジャーインスティチュート・著、大和書房)
『自分の小さな「箱」から脱出する方法』

 今思えば、うまくいかないと感じていた時は、何かと人のせいにすることが多かったです。人に責任転嫁することで、自分をいいように解釈しようとしてたんですね。監督が試合に出してくれない、あいつは僕の文句を言ってるんだろうな、などと感じるのは、自分が自分の箱の中からしか物事を見ていないときです。この本を読んで、自分の箱から出れば、相手の意図や本音に近づきやすくなると思えました。自分を客観的に見ることの大事さに気づかせてくれる本です。


取材・文 小林亮子
日本の映画業界で約10年働き2006年から在星。ローカル学校に通う二人の子育てのかたわら、執筆・通訳翻訳業や、バイリンガル環境の子供たちに日本語を教える会社を経営

 
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