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2020.12.12

写真提供:Shavonne Wong バーチャルモデルのLunah(左)、「Gen V modeling agency」の社長のShavonne Wong氏(右)


実在するモデルのいないモデルエージェンシーが存在することをご存知だろうか?シンガポールのファッションフォトグラファーShavonne Wong氏はパンデミックの「サーキットブレーカー」中に職を失い、テレビゲームで遊ぶ毎日に飽き飽きしていた。そのため、オンラインで新しいスキルを習得し、ノートパソコンでヘア、メイク、アクセサリー、衣装を備えたバーチャルモデルの作成を始め、8月にバーチャルモデルのエージェンシー「Gen V」を立ち上げた。彼女は「Sephora」や「Lancome」などのブランドをクライアントとして抱え、リアリティ番組「Asia’s Next Top Model」では10年間ゲストフォトグラファーを務めるなど、美容とファッションに精通している。

「サーキットブレーカーは非常に役立ちました。家にいることができるので、今まで学ぶことのできなかったソフトウェアについて、YouTubeのチュートリアルを観て学び、1日14時間コンピューターの前にとどまることができたからです」と29歳のWong氏は語った。

 

シンガポールはCOVID-19の感染対策として、4月に「サーキットブレーカー」と呼ばれる2カ月のロックダウンをした。生きていくうえで必要不可欠ではないとされたファッションやアートなどの産業は活動が制限され、ほぼすべての人が在宅勤務を命じられていた。ファッションショーや撮影はコロナウイルスの潜在的な温床であったため、人との交流や身体的接触の制限がされていた。そんな中、Wong氏のバーチャルエージェンシーは独創的な素晴らしいアイディアだった。

「モダンで最先端であるはずのファッション業界ですが、技術面での改善に遅れをとっていることに気づいていました。常に行われてきた方法に固執し、非常に伝統的な方法で物事を行っていました」

また、Wong氏は、主に春/夏と秋/冬の2つのシーズンに向けて大量の服を生産し、多くの無駄を出す時代遅れなファッション業界の運営の仕方について言及していた。H&MやZaraのようなファストファッションの販売店の出現により、以前よりも早く流行を先取りした服を作り、さらに多くの服が生産されている。ファッション業界の悪しき習慣が“多くの売れ残った在庫”を生むことをもたらしているが、これは、3Dレンダリングモデルを使用し、従来のファッションショーや洋服をデジタルに切り替えることで解決できると考えている。

「これらはすべて、テクノロジーが役に立つ可能性がある問題です。バーチャルショーを行い、製造前に顧客が関心を示すのを待つことなどができます」と彼女は言う。

写真提供:Gen V バーチャルモデルのLilium、Lunah、Kade


Wong氏はKade、LiliumそしてLunahと名づけられた3人のバーチャルモデルを作成して以来、シンガポールのファッション誌「Nuyou」と「Female」に登場した。オフィスやスタジオ、衣装、モデル、ヘアスタイリスト、メイクアップアーティストなしで、彼女と彼女のパソコンだけですべてを行った。

写真提供:Gen V ポーズをとるバーチャルモデルのKade


彼女が作成した最初のモデルであるKadeは、当初は東アジアに見えることを目的としていたが、参照が不足していたため、その計画は失敗に終わったそうだ。

「これらのバーチャルモデルは、人種に曖昧さがあるというところが良い点であると考えてます。特定の人種として認識できない分、その独特な容姿はより多くの人が共感できるとも思っています。彼女たちははっきりと特定の人種だとかに分けていません。最終的な構想は、肌の色、体型、体のサイズ、年齢、性別など、幅広い選択肢の中からクライアントがモデルを選択できるようにすることです」

彼女はモデルの見た目を多様化することを目指しており、プラスサイズモデルであるVanessaと、両目の色が異なる虹彩異色症を患っているLexiを紹介する予定だ。また、Wong氏は意図的にモデル達に独特な名前をつけ、ソーシャルメディアで目を引くようにしているという。

 

写真提供:Gen V アスレチックレジャー服のパターン


工科学校で学んだ基本的な3Dアニメーション技術を使い、少なくとも2週間かけて1体のモデルを作成する。また、彼女はオンラインチュートリアルと沢山のモデルを参照し、髪、眉毛、まつげ、さらには毛穴までをデジタルで再現。クライアントの要望に基づいてモデルに修正を加えることもあり、制作プロセスをさらに引き延ばすこともある。

写真提供:Gen V 赤い服を身に纏ったモデルのKade


「実際のモデルを使った撮影で構図を変更するとなると、修正する量が多くなったり、写真を取り直す必要があります。しかし、バーチャルモデルを使った場合、写真を取り直すことなく修正することが可能で、何パターンもの写真を作ることができます」

直近のことだと、3D仮装衣料品会社「Vas3D」と共同でモデル達を最新のプラダの衣装を着せた。仮装衣装の制作は衣装の複雑さによっては丸一日かかる場合もあり、最も時間のかかる作業は衣服のパターンを切り抜く作業だ。Wong氏はいずれ動きを加え、モデル達がランウェイを歩けるようにしたり、イベントを主宰できたりと、さまざまな仕事を引き受けられるようにする計画もあるそうだ。

「モーションキャプチャ全般を理解し、モデル達がファッションだけでなくバーチャルランウェイやイベントの主催者にも慣れるようにする計画があります。Gen Vには多くの可能性と方向性があると感じているので、今後何が起こるかを前向きに見ています。大きな話題になるまで、作業に取り組んでいきたいです」

出典:COCONUTS