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2017.01.31

業界人が分析!最新シンガポール映画ビジネス事情

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筆者とシンガポール映画の初めての出会いは、1998 年の『フォーエバー・フィーバー』(2000 年日本公開)だった。ディスコに目覚めて、『サタデー・ナイト・フィーバー』のジョン・トラヴォルタよろしく踊っていたのが、今やシンガポール芸能界の一流スターに成長したエイドリアン・パンだったとは、当時知る由もなかった。そんな筆者が、成長著しいシンガポール映画事情の理解度を高めるため、業界人たちを直撃!

【Text by: 小林亮子】
日本の映画業界で約10 年働き、2006 年から在星。現在は2 児の子育ての合間に本コラム他執筆活動や、バイリンガル環境の子どもたちに日本語を教えている


娯楽が多い中、いかに動員数を 確保できるか

話を聞いたのは、「ショウ・オーガナイゼーション」の副社長マーク・ショウさん、「ゴールデン・ヴィレッジ(GV)」でアジア作品のマーケティングを担当するソン・ティンさん、「アンコール・フィルムズ」のジョイス・リーさんの3人。

GVのティン氏によれば、「映画館で映画を見る以外に、動画配信サービスやケーブル TV、ライブやテーマパークなど、現代は娯楽の選択肢があまり に多い。動員数をいかに確保するかは 映画業界全体の課題」とのこと。ショウ氏は消費者獲得競争の存在を認識した上で「IMAXシアターや、高級感のあるレザーシートで鑑賞するプレミアムシアターなど、観客のニーズに応じて付加価値を提供する戦略を展開している」と明かす。GVも、ママが赤ちゃん連れで鑑賞できる日や、作品名を伏せたサプライズ上映、コンサートのストリーミング上映などのサービスを提供している。「SNSによる宣伝やオンラインチケット購入システムなど、よりダイレクトに観客にリーチできるツールがあるのは現代ならでは」とショウ氏は語る。


年間平均鑑賞回数は 世界で上位の約4回強

シンガポールは、1人当たりの映画の年間平均鑑賞回数が年間約4回強と、世界で常に上位にランキングしており(情報: Screen Australia、asiaone.comなど)、ショウ氏も「映画館に行くことは国民にとって主要なイベントの1つ。シンガポール文化において重要な役割を担っている」と話す。では、どんな映画が人気なのか?

スーパーヒーロー、アクションは不動の人気。IMAX版があればなおのこと。ホラーやコメディにも観客層はついている」という点には、ショウ氏もティン氏も同意見。一方で、「アート系映画や海外映画祭での賞受賞映画などにも徐々に興味が向きつつある」(ショウ氏)とのこと。配給作品を選ぶ際にも「ジャンルに捉われず、ファンがいるだろうと想定できる作品なら挑戦することもある」(ティン氏)のだそうだ。

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邦画ファンが育ち、昨年はロングランヒットも誕生

日本映画製作者連盟の統計によれば、1 970年後半から邦画は低迷、 90 年代には洋画の公開本数が邦画を遥かに上回る洋高邦低の傾向が顕著となったが、2006年頃から形勢逆転。2012年には邦画シェアが 65 %を超え、以来完全復活したと言われる日本映画。シンガポールではどうなのか。

配給会社アンコール・フィルムズは、『デスノート』シリーズ(2006年日本公開)や『 20 世紀少年』(2008年『崖の上のポニョ』(2008年)など のジブリ作品。昨年は『シン・ゴジラ』 (2016年)など多様なジャンルの邦画を配給、シンガポールのファンを育ててきたと言っても過言ではない。ここ数年、年間5、6本の邦画をコンスタントに紹介している。「漫画やアニメなどの映画化作品は、動員が確実に期待できる邦画ジャンル」とリー氏。

そんなリー氏が、昨年シンガポールでの配給権をオファーされながら、勝算を期待できないと想定し断ったことをひどく後悔している作品がある。興行収入が 200億円をゆうに突破し、日本の歴代興収4位(2016年 12 月現在)を記録、今も大ロングラン上映中の映画『君の名は。』だ。

日本公開の約2カ月後、 11 月3日にシンガポールで公開となった同作は、動員数が思わしくなければ2週間で打ち切りもざらの同国では、アニメおよび邦画としては異例の大ヒットロングランとなった。


SNSでヒットの予想が計れる時代

最後に、3人に今後のシンガポール映画界の展望、2017年への意気込みを聞いた。「今年はハリウッドの大作やシリーズものの続編が控えており、最初の四半期だけで8本の IMAX作品が上映される予定。これは始動以来快挙と言える数字で、観客動員の勢いが増すと思う」(ショウ氏)。「ハリウッドの夏の映画戦線が、今年は早々と3月頃から始まる。観客が毎週毎月でも映画館に足を運ぶよう、道筋を築いていきたい」(ティン氏)。「最近は中国映画のクオリティが上がっており、格段に面白くなっている。また昔に比べ、字幕映画にも抵抗がない観客が増えてきており、幅広い層に様々なジャンルの映画がリーチする時代になってきた。また SNSへの反応で、ヒットの予想が計れる時代。ファンとのダイレクトなやりとりをさらに重視していきたい」(リー氏)

映画館も配給会社も観客も、一致団結して映画界全体を盛り上げていく。そんな時期に、シンガポール映画界は突入しているようだ。